ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

金澤裕之(1997.4)助動詞「ない」の連用中止法について

金澤裕之(1997.4)「助動詞「ない」の連用中止法について」『日本語科学』1

要点

  • 近年、規範的ではない否定の連用中止法「~なく」が認められる
    • このとき本塁上には捕手はいなく木村の快走でこの回二点をあげて優位に立った。
  • ナク中止の特徴2点、
    • 状態述語に偏る(味もしなく、捕手はいなく、安定していなく)という点からすると、形容詞から類推を受けた可能性がある
    • 肯定形を持たない形式がある(にすぎなく、ても構わなく)
  • 大学生対象の調査(1996年)では、
    • 状態的な場合に取りやすいという傾向に沿い、
    • 状態的でない動詞の場合(切る)には取りにくい
  • このことは、形容詞に近い動詞から規範的なルールが崩れ始めて、ズからナイへの移行の最終的な段階であることを示唆する

雑記

  • なんで日本語科学やめて国語研論集になったんだろう

勝又隆(2005.10)上代「−ソ−連体形」文における話し手の認識と形容詞述語文

勝又隆(2005.10)「上代「−ソ−連体形」文における話し手の認識と形容詞述語文」『日本語の研究』1(4)

要点

  • 上代におけるソの係り結び(論文では「ーソ―連体形」)が、推量系の助辞を結びに取りにくいことが何の反映であるのかを考える
  • 機能の点から
    • 上代のソの結びは動詞が40%以上、ム・ラム・ケム・マシ・ベシは2%にも満たない
    • 中古でゾの結びにならないのは連体ナリ・マジ・ジのみ
    • ナムは連体ナリ・ム・ラム・ケム・マシ・ジを結びに取らないので、この点で上代ソと共通する
      • ナムの「事態について確定的に述べる」が上代のソにも言えそう
      • 推量を「非現実事態」とすると、ソは現実事態を言語化すると言えそうだが、ム・マシも少数ながら存在するので、そうとも言い難い
  • 「根拠となる情報に対する認識のあり方」という観点から分類すると、
    • 直接情報に基づく発話が大半を占め、
    • 間接情報も「伝聞」「知識」であり、「情報を事実とみなす認識」であるという点で統一的に理解される
  • この機能は形容詞述語文と相似的である
    • ソはコソに比して形容詞・アリ系の結びが多く、状態性を帯びる傾向にある
    • 形容詞述語文の終止法にも同様、白鳳期までは推量系の制約があり、「情報の事実認識」の傾向が取れる
    • 形容詞述語文も平城期以降はムを取ることが多くなり、ソがその影響を受けて、遅れて同じ変化を辿った可能性がある

雑記

  • 目指すぞ!

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奥村彰悟(1997.8)「ないければ」から「なければ」へ:一九世紀における打消の助動詞「ない」の仮定形

奥村彰悟(1997.8)「「ないければ」から「なければ」へ:一九世紀における打消の助動詞「ない」の仮定形」『日本語と日本文学 』25

要点

  • ナイケレバが18C後半から19C前半にかけて見られることは知られているが、ナケレバの変化については明らかになっていない
  • 洒落本のナイケレバはネバ・ズハの両方の用法(恒常条件・仮定条件)を担っていた(奥村1996)
  • 調査、1850年頃を境にナイケレバからナケレバへの移行が起こったと考えられる
    • 七偏人まではナイケレバ優勢、
    • 安愚楽鍋では江戸町人でない人物のみがナイケレバを使用する
  • まとめ、
    • 変化は天保安政頃で、明治10年代に完了
    • 打消のナイが形容詞型の活用を完備するようになったこと(→坂梨)が要因で起こったと考えられる

雑記

  • 否定に興味ニキ

奥村彰悟(1996.8)江戸語における「ないければ」:洒落本における打消の助動詞を用いた条件表現

奥村彰悟(1996.8)「江戸語における「ないければ」:洒落本における打消の助動詞を用いた条件表現」『筑波日本語研究』1

要点

  • 江戸語のナイケレバをネバ・ズハと比較して考える
  • 使用傾向として、
    • 明和期は、打消にはヌ・ズとナイが並用され、ナイの勢力は極めて弱い(小田切1943)が、寛政に至るとナイへと勢力が移る
    • バがつくナイケレバ・ネバ・ズハはこの傾向には沿わず、寛政に至ってもネバ・ズハ>ナイケレバ である
  • 条件表現体系内で担う位置を見ると、
    • 仮定条件は、
      • ズハが多く:もしまだ来ざア
      • ナイケレバにも仮定条件が確認される:そふいわねへけりやア、おけへりなさるめへ
    • 恒常条件にはナイケレバが多い:おれをしらねへけりやアはじのよふにおもふ世の中だ
    • 確定条件はカラ・ユヘ・ニヨッテ
    • 当為表現はネバ・ナイケレバが優勢で、ズハは特殊(ズハナルマイに偏る)
  • まとめ、
    • 恒常条件はネバからナイケレバへ、
    • 仮定条件はズハからナイケレバへという変遷の途中である

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p.86

雑記

  • 2月3月をバイアウトした~い!

坂梨隆三(1995.3)打消の助動詞「ない」の発達

坂梨隆三(1995.3)「打消の助動詞「ない」の発達」『人文科学科紀要 国文学・漢文学』27、坂梨(2006)『近世語法研究』武蔵野書院 所収

要点

  • 打消のナイの活用は滑稽本には終止連体形しかなく、連用形ナク・仮定形ナケレはないが、人情本になると出揃うようになる
  • 全体として、
    • ナクのほうがナケレより多く、これは、連用形から活用形を揃えたことを示唆し、
    • ナカッは用例も少なく、出現時期も遅い
  • 諸例のうち、
    • 早めに現れる「好かなくて」「つまらなく」は形容詞的であり、これが動詞+ナクを発生させる支えとなったか
    • 「いけなけれど」の例も早くにあるが、これも一語的である
  • 江戸語の打消はナンダを除けばほとんどがナイで賄われていて、そこにナクが入り込んで活用を揃えたのではないかと考えられる
    • ナイデ/ナイデアロウ/ナイヨウニナル/ナイケレバ

雑記

  • 2月が無理すぎんねんな

川瀬卓(2019.8)不定の「やら」「ぞ」「か」の東西差と歴史的推移

川瀬卓(2019.8)「不定の「やら」「ぞ」「か」の東西差と歴史的推移」金澤裕之・矢島正浩『SP盤落語レコードがひらく近代日本語研究』笠間書院

要点

  • 不定のヤラ・ゾ・カの歴史を、地域差を踏まえて考えたい
  • 近世後期においては、上方はゾ>ヤラ>カ、江戸はカ>ゾ>ヤラ
  • 落語SPレコードでは、
    • 東京でカ、大阪はゾという地域差があり、
    • 大阪ではゾが使用されつつも、カの使用が拡大する
  • 関連する複合的な現象として、
    • 副詞ドウカが東京で発達するのはカが活発であることと関連し、
    • 一方、ドウゾがゾが活発でない東京でも用いられ、独自に歴史的に展開する側面もある
    • 副助詞も同様、ナンカが東京で新たに用いられるようになる一方、ナンゾは独自に展開する
  • 他の近代大阪語資料も含めて見ると、
    • 上方・大阪において、近世後期に多かったゾを、戦後、カが上回るようになる
    • 「中央語としての東京語ないし標準語が、地域語としての大阪語に影響を及ぼしている」(p.265)

雑記

  • 3ヶ月ぶりに再開します

永田里美(2000.8)勧誘表現「~マイカ」の衰退:狂言台本を資料として

永田里美(2000.8)「勧誘表現「~マイカ」の衰退:狂言台本を資料として」『筑波日本語研究』5

要点

  • 虎明本には勧誘表現Vマイカがあるが、虎寛本ではVウデハアルマイカが該当し、Vマイカは見られない
    • そへ発句をせまひか > 此に添発句をせうでは有るまいか
  • このことを踏まえ、マイカの衰退とウの優勢化の関連について考える
    • マイの史的変遷を考えるだけでは不十分で、マイカの持つモダリティとしての機能を考えなければならない
  • イカには以下の2種があり、
    • 否定意志の有様を問いかけるタイプ
    • 否定疑問が働きかけとして機能するタイプ
      • 後者は、「意志+否定」と、「否定疑問による聞き手への働きかけ」が複合している
      • 一方で、ウ(・マイ)単独による勧誘は、自己の意思表明などの「表出性」が1,2人称に用いられることによるものと考える
  • この後、マイカよりもウデハナイカ・ウカが優勢になるが、これは「意志」と「聞き手への働きかけ」を分析化させたものであると見なすことができる
    • ウデハアルマイカ・ウデハナイカは、Vデハナイカの発達を背景として成立したもの

雑記

  • 首は回らなくなり、目も充血している
  • またしばらく休みます