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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

菊池そのみ(2019.1)古代語の「ての」について

菊池そのみ(2019.1)「古代語の「ての」について」『筑波日本語研究』23.

要点

  • 標記形式(飲みての後は・万821)について、以下2点を考えたい
    • 1 古代語における、テノによる連体修飾と、連体形連体修飾との間の差異
    • 2 古代語のテノと現代語のテノの差異
  • 調査結果、
    • 古代語のテノの下接形式は時を表す名詞(後、世、頃)が多く、現代語に比してバリエーションが少ない
    • 成分としては、副詞句的に働く例が多い
  • 1点目について、
    • テノは、連体修飾とは異なる時間関係を表示する
      • 「身まかりての秋」は「~が起きた年の秋」であり、「隠れたまへりし秋」のような「亡くなった秋」ではない
    • 一方、連体修飾と同じような時間関係の表示(おはしまさずなりてのころ/~なりたるころ)もある
  • 2点目は、連体化のタイプの異なりが指摘できる
    • 現代語はA「連用修飾節の連体化」、B「補文の連体化」の2つのタイプを持つが、古代語はB「補文の連体化」のみを持つ
    • A ヤブや雑木をかきわけての重労働 → かきわけて重労働する
    • B ひたすら働き続けての定年 → 働き続けて迎える定年

雑記

  • これいいすね

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山本佐和子(2020.3)中世室町期における「ゲナ」の意味・用法:モダリティ形式「ゲナ」の成立再考

山本佐和子(2020.3)「中世室町期における「ゲナ」の意味・用法:モダリティ形式「ゲナ」の成立再考」『同志社国文学』92.

要点

  • ゲナが「本体把握」「内実推定・原因推定」を主張し、ゲナリとの関係性からその意味が生まれる理由を考えたい
    • cf. 大鹿1993, 1995, 2004, 岡部2011
  • ゲナの意味・用法、
    • 形態的に:ゲナはゲナリに比して形態的な制約が大きく、活用は「ゲニ候」「…ゲデ、~」しかない
    • 原則は終止形+ゲナであるが、テアル・オ~アルの場合にアリゲナがあり、「良い」にヨゲナ・ヨイゲナの二形態が認められる
      • アルや、話者の判断・評価を表すヨイで、「接辞とモダリティ形式とが近似する」…(ア)
    • 意味的に:ゲナはラシイ同様、「所与の事態からその背後にある、全体としての事態を把握している」という「推定」の判断(本体把握)を表す
    • 構文的に:ゲナはホドニ節を受ける例が多い
      • そこには焦点の移動が認められ、ゲナの前接部分が名詞句になっている可能性がある…(イ)
  • ゲナの発達について、
    • 青木2007は、a. 語「~ゲナリ」、b. 名詞句「~ゲ」+「ナ」、c. 文「~」+「ゲナ」 の3段階を想定するが、当時のコピュラはナリではなくヂャであるので、ゲ+ナという異分析は起きないのではないか
    • このとき、上記アはaとcの連続性を、イはcの前に名詞節(準体句)+ゲナ の段階を想定すべきことを示すものと考えられる
    • ゲナリの方を見ると、室町には連用形ゲナリが「気配・存在が感知される状態」(きたなげなり)のみならず、「個別・具体的な事態の属性」(思ひたりげなり)を表すことができるようになっている
    • 漢語形容動詞語幹への後接を経て名詞+ゲナが可能になったこと、対義的でかつゲが形態的に独立するゲ(モ)ナシの存在があったために、ゲナの前接語が早くに連体形になったものか
    • 連用形ゲナリの「個別~」の用法、名詞に直接つく用法が生じたことで、「前接する活用語の連体型は、「ゲ」への連体節ではなく、…名詞節(準体句)であると捉えられ、「ゲナ」は語を形成する接辞から、文法的な要素へと変化したと考えられる」

雑記

  • 8月一瞬で終わったんジャガ…

佐藤順彦(2011.3)後期上方語におけるノデアロウの発達

佐藤順彦(2011.3)「後期上方語におけるノデアロウの発達」『日本語文法』11(1).

要点

  • 江戸語のノダロウについては明らかな点が多いが、上方語についてはそうではない
  • 上方語における事情推量を表す形式の調査結果
    • 前期→後期にかけて、モノジャ>ノジャの交替
    • 前期→後期にかけて、モノデアロウもノデアロウに交替
    • デアロウは一貫して見られる(まだ変化の影響を被っていない)
    • 江戸語もほぼ同様か
  • モノジャ>ノジャについて、
    • モノジャは希薄ではあるが実質的意味を有しており、一方のノは実質的意味を持たないために「使い勝手がよかった」ことによるのではないか
  • ノデアロウについて、
    • 安永期には確立しており、
    • 江戸語では原因・理由焦点(~から~のだろう)が遅いという指摘がある(鶴橋2009)が、上方語では当てはまらない
  • デアロウはノデアロウと併存するが、これは、背後事情を問う場合のノカにノが任意的であることと並行する
    • 「事態の事情・意味を問題にする場合、現代語では専用の形式(ノダ・ノカ等)の使用が義務的であるのに対し、近世語ではそれが任意だった」(p.15)

雑記

  • 家ほし~

佐藤順彦(2009.3)前期上方語のノデアロウ・モノデアロウ・デアロウ

佐藤順彦(2009.3)「前期上方語のノデアロウ・モノデアロウ・デアロウ」『日本語文法』9(1).

要点

  • 前期上方語で未発達であったノデアロウの機能を、モノデアロウ・デアロウが担っていたことを主張する
  • 現代語のノダロウの機能は事情推量であり、
  • 前期上方語のノデアロウは数が少なく、いずれの例も代名詞的なノであって、ノダの推量形としてのノデアロウは成立していなかった
    • さだめてこれが、侍衆のとらせらるゝ二人扶持といふのであらふといふた。(当世軽口咄揃)
  • 一方、ノジャには(語用論的な)事情推量の例があり、過渡的である
    • それがきいて。せくのじや[薬が効いて咳き込んでいるんだ](本朝廿四孝)
  • 事情推量を表す形式としては、モノデアロウが事情推量専用で使われ、モノジャも(語用論的な)事情推量の例がある
  • 前期上方語のデアロウは、後期江戸語のダロウ同様、事情推量を表す用法を持つ

雑記

  • 準体のこと考えるときに、モノ系形式のことをもっと考えたい

大西拓一郎(1999.11)新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって

大西拓一郎(1999.11)「新しい方言と古い方言の全国分布:ナンダ・ナカッタと打消過去の表現をめぐって」『日本語学』18(13)

  • GAJ151の打消過去の分布と中央語史を比較したい

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p.100

  • GAJ151「行かなかった」では、
    • 東にナカッタ、西にナンダ
    • ナンダ類を囲むように、新潟・九州・中国・中部などにンカッタ
    • ザッタが中国西部・高知、九州北部~南東部
    • ンジャッタが九州の西・北東~中国西部(鹿児島にはンナッタも)
  • 歴史の推定、
    • ナンダ類にはナフ説とヌ+アッタ説があるが、鹿児島のンナッタは後者を支持する
    • ナカッタは形容詞ナイと同形となったもの(中央語では近世以降)
      • 東北でも形容詞同様のネカッタが見られることより、東日本でのナイの「無い」への合流は相当に早かったと考えられる
    • ザッタは全てがザリタ>ザッタではなく、ンジャッタ(ヌ+コピュラ+過去)の発生に伴って生じたものもありそう
    • ンカッタ・ナンダは周圏的な分布だが、ンカッタ>ナンダとはみなすことができない
    • ンケ(静岡)、ナイッケ(静岡・山形)は否定+過去の単純な語形成を行い、
    • ンダ(近畿周辺)は、ン(否定)+ダとはみなせない可能性がある

雑記

  • すぐさぼる

仁科明(2006.3)「恒常」と「一般」:日本語条件表現における

仁科明(2006.3)「「恒常」と「一般」:日本語条件表現における」『国際関係・比較文化研究』4(2)

要点

  • 厳密に議論されてこなかった「恒常条件」「一般条件」の定義について考える
  • 先行研究における定義はそれほどはっきりしないが、「結び付けられる二つの句が表す事態のあり方に関する規定」だと考えるのが妥当である
    • 条件句の性格(e.g. 松下)なのか、それとも表現される因果関係のあり方(e.g. 阪倉)なのか?
    • 鈴木義和1987は、已バによる恒常条件・一般条件の形式的類型に、連体型(雨降れば激つ山川)、述語型(春されば花さきにほひ…)という類型があることを指摘し、それが「関係の一般性(非一回性)」による制約であると見る
  • 条件表現の体系内部においては以下の立場があるが、恒常・一般条件は、前句の性格によって規定される仮定条件・確定条件と対立する領域とすることはできないのではないか?
    • 仮定条件側に置くもの(松下)
    • 確定条件側に置くもの(木下)
    • その中間に置くもの(阪倉→山口・小林)
  • 「恒常」と「一般」とを分けて考えるべきであり、本稿では以下の用語法を提案する
    • (経験的)恒常条件:話手の経験内における二事象の結びつきの恒常性
    • 一般条件:個別の事態の結びつきを離れた二事象の結びつきの一般性、法則性
  • 上の定義のもとで、これら「広義恒常条件」の条件表現体系での位置づけを考える
    • 経験的恒常条件は、確定条件の下位分類に、一般条件は仮定条件の下位分類になる
      • 経験的恒常条件は、前句が現実性をもったものに限られ、
      • 一般条件は、前句が既然の事実には一切触れないという点で仮定的である*1
  • 条件表現史のこれまでの理解、
    • 順接の領域で、「「已然形+ば」が「広義恒常条件」を表していたことから、そこで表される関係の「一般性」が、未経験の領域に投射されることによって、「未然仮定」が表されるようになったという理解」(阪倉・川端)が通説であり、
    • 逆接では、異なる形式が担った未然仮定(トモ)・広義恒常(ド・ドモ)を、現代語では同一のテモが担うようになっている(衣畑2004)
    • この2つの変化は、確定条件形式と結びついてきた広義恒常条件が、近現代語では仮定条件の形式と結びつくようになったという点で共通する

hjl.hatenablog.com

  • 本稿での理解、
    • 古代語の広義恒常条件は、経験的恒常条件を中心としており、一般条件はその派生として捉えられていた
      • 順逆ともに広義恒常条件が確定条件形式によって表されるのはこのことによる(経験的恒常条件は確定条件の一部)
    • 近現代語の広義恒常条件は、経験的恒常性よりも、一般性・法則性の方にずれ込んでいる
      • 順接で已然形バが未然仮定を兼ね、逆接でも未然仮定がテモで表されるのはこの把握のあり方を反映する
    • 古代語から近現代語への変化は、「「広義恒常条件」に関する把握が、いわば「恒常(一般)条件」から「一般(恒常)条件」へ」と変化したことによるものと考える

雑記

  • 桃鉄みたいな感じで給料がサイコロで決まってほしい

*1:こういうときの「仮定」の外縁ってなんだろね

仁科明(1998.12)見えないことの顕現と承認:「らし」の叙法的性格

仁科明(1998.12)「見えないことの顕現と承認:「らし」の叙法的性格」『国語学』195.

要点

  • ラシの性格と、妥当な理解について考える
  • まず、ラシを「根拠ある推量、確かな推量」という従来的理解、ひいては「推量」とする理解そのものに限界がある
    • (この規定の根拠となる、)「根拠句とラシが併置される」ことは、あくまでもそのラシが「根拠の明示された推量」であることを示すだけで、
    • 推量を「不確かな判断」「推論による判断」のどちらで規定する場合においても、ラシを推量と捉えることはできない
  • ラシを特定の意味ではなく叙法の次元で考え、「何らかの理由によって直接に手にとって見ることのできない事態が、現実(現在ないし過去の客観的事実)として動かしがたく存在することを(確言的に)承認する」と規定したい
    • 事態の成立に対しては積極的な保証を与える(cf. 形容詞終止形・キ・ケリ)
    • 一方で、事態が「直接観察できない」という特殊な位置づけも与える
    • ラシの「不確かさ」は後者の側面によるものと考える
  • 用例を「観察不可能」のあり方から大きく2種に分けると以下の通りで、太枠部を占める
    • イ 物理的に遠
      • イ1 眼前事態との強い関係
      • イ2 他人からの情報
      • イ' 不可視の事態
    • ロ 一般的真理を表す
  • 構文的ふるまいについても以上のラシの把握から説明可能
    • 仮定条件の帰結句に現れないのは、「仮定条件の帰結句で表されるような事態には話してが積極的保証(確言的承認)を与えてやることが不可能」であるからであり、
    • 疑問文に現れないのも、ラシが特殊な断定判断を打ち出す形式であり、その承認のあり方が、「内容が成り立つかどうかだけが問題にされる疑問文」では問題にならないことによる
  • 終止形から分出されることについては、(連用形が広義完了、未然形が非事実としてまとめられる一方で、)ラム・ベシとともに、「話し手にとって確実な事態を確実なものとして承認するわけでも非現実の事態を単に想像的に思い描くわけでもないという消極性によって規定される」ものと考える

雑記

  • ヤフオクで、その編が上中下揃ってるだけの端本を「4編揃」みたいなタイトルで出す出品者、追徴課税食らってくれ~