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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2019-01-01から1年間の記事一覧

川村大(2000.2)叙法と意味:古代語ベシの場合

川村大(2000.2)「叙法と意味:古代語ベシの場合」『日本語学』21(2) 要点 ベシを「観念上の事態の成立を承認する叙法形式」と捉えることで、その多義性を説明できる 前提 仁田・益岡らのモダリティ論は、以下の点で問題を孕む 「主観性」を持たない用法を…

岸本恵実(2018.5)キリシタン版対訳辞書にみる話しことばと書きことば

岸本恵実(2018.5)「キリシタン版対訳辞書にみる話しことばと書きことば」高田博行・小野寺典子・青木博史(編)『歴史語用論の方法』ひつじ書房 前提 大文典における「話しことば」と「書きことば」の区別について考えたい ロドリゲスは日本語の大きな特徴…

原口裕(1978.11)連体形準体法の実態:近世後期資料の場合

原口裕(1978.11)「連体形準体法の実態:近世後期資料の場合」『春日和男教授退官記念語文論叢』桜楓社 要点 ノ準体の明確な定着は天保以降である 推移 明和期洒落本においては全体的に頻度は少ない ノ準体は受け型(内の関係、モノ型)に多く、 φ準体はト…

清水登(1988.12)抄物における「ゾナレバ」の用法について

清水登(1988.12)「抄物における「ゾナレバ」の用法について」『長野県短期大学紀要』43 要点 抄物に特徴的なゾナレバは連語として見なすべきではなく、疑問文ト云ヘバと可換 前提 鈴木博はゾナレバを「接的接続詞」として扱い、「…か?そのわけは…」「…か…

中野伸彦(1990.12)江戸語における「命令文+終助詞『ね』」

中野伸彦(1990.12)「江戸語における「命令文+終助詞『ね』」」『山口大学教育学部研究論叢 第1部 人文科学・社会科学』40 要点 江戸語と現代語の命令文+ネは意味合いが異なる 「聞き手の自覚をもとにして、その自覚を確認する」という要求の仕方をする、…

中野伸彦(1999.10)江戸語における終助詞の相互承接

中野伸彦(1999.10)「江戸語における終助詞の相互承接」『近代語研究』10 前提 文の構成に関わらない終助詞の相互承接を、五十音順に見ていき、整理する 終助詞の相互承接 い いの のみで、文語調・疑問文に偏る え えぞよ 1例のみ、平叙文 さ さな、平叙文…

蜂矢真弓(2019.5)一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ

蜂矢真弓(2019.5)「一音節名詞ア・イ・ウ・エ・オ」毛利正守監修『上代学論叢』和泉書院 前提 上代特殊仮名遣の崩壊に伴う一音節名詞の同音衝突と、その回避のための方策 必要な一音節語のみを残し、 それ以外は廃語にするか、 既存の多音節語に置き換える…

柳田征司(2007.10)上代日本語の母音連続

柳田征司(2007.10)「上代日本語の母音連続」『国学院雑誌』108(11) 前提 母音連続に関する以下の諸問題について考える なぜ脱落や転成が起こったか なぜ全ての母音連続には起こらなかったか 平安時代以降それが起きなくなるだけでなく、イ音便が定着するの…

菊田千春(2004.6)上代日本語におけるノ・ガ格と名詞性:規則性と例外の共存をめざして

菊田千春(2004.6)「上代日本語におけるノ・ガ格と名詞性:規則性と例外の共存をめざして」石黒明博・山内信幸編『言語研究の接点:理論と記述』英宝社 前提 LFG(Lexical Functional Grammar)を用いて上代の主格表示を分析する 上代のノ・ガの分布は野村…

宮腰賢(2007.11)自動詞「思ひ出づ」について

宮腰賢(2007.11)「自動詞「思ひ出づ」について」『国学院雑誌』108(11) 要点 中古の「思ひ出づ」には自動詞の用法もある 前提 他動詞としての「思ひ出づ」 君をあはれと思ひ出でける(竹取) 次の歌は「あの人を」「そのことを」などを補って解釈されるが…

村山実和子(2019.8)接尾辞「ハシ(ワシイ)」の変遷

村山実和子(2019.8)「接尾辞「ハシ(ワシイ)」の変遷」『日本語の研究』15(2) 要点 形容詞化接尾辞ハシは、中古には動詞からの派生、中世・近世に形容詞からの派生を行うようになり、近世以降に衰退する この変化は、同種の形容詞→形容詞化接尾辞の歴史と…

三宅俊浩(2018.11)近世後期尾張周辺地域における可能表現

三宅俊浩(2018.11)「近世後期尾張周辺地域における可能表現」『名古屋大学国語国文学』111 要点 近世後期の尾張において、以下の交替が確認される 五段動詞はレルから可能動詞へ(1) 一段・カ変はラレルからラ抜きへ(2) サ変はナルからデキルへ(3) 1,…

山際彰(2018.10)時間的意味から空間的意味への意味変化の可能性:「端境」の変遷を通して

山際彰(2018.10)「時間的意味から空間的意味への意味変化の可能性:「端境」の変遷を通して」『国立国語研究所論集』16 要点 「端境」は、一般的傾向に反する「時間的意味から空間的意味」という意味変化のように見えて、そうではない 前提 語の意味変化の…

徳本文(2017.3)複合動詞の後項「こむ」の変遷

徳本文(2017.3)「複合動詞の後項「こむ」の変遷」『立教大学日本語研究』24 要点 Vコムは中世から近世にかけて発達する 前提 現代語のVコム*1の用法を参考に、本動詞の意味を保つかどうかを基準として、以下の分類を立てる 内部移動:落ちこむ、食いこむ、…

泉基博(1995.11)『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして

泉基博(1995.11)「『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして」『宮地裕・敦子先生古稀記念論集 日本語の研究』明治書院 要点 「つ」「ぬ」の転換期である中世前期の様相を『十訓抄』を元に考える 使用量と活用 源氏から十訓抄にかけて、ヌ…

高見三郎(1990.6)『杜詩続翠抄』の「マジイ」「ベイ」

高見三郎(1990.6)「『杜詩続翠抄』の「マジイ」「ベイ」」『女子大国文』107 要点 杜詩続翠抄にはマジイがある程度用いられており、ベイも固定せずに用いられている 前提 杜詩続翠抄はナリ体だが、ナリ・ゾは口語性の一つの目安に過ぎないので、マジイ・ベ…

高見三郎(1977.3)杜詩の抄:杜詩続翠抄と杜詩抄

高見三郎(1977.3)「杜詩の抄:杜詩続翠抄と杜詩抄」『山辺道』21 諸本 杜詩続翠抄 両足院蔵「杜詩続翠抄」 国会図書館蔵「杜詩続翠鈔」 杜詩抄 両足院蔵「杜詩抄」 足利学校図書館蔵「杜詩抄」 原典は『集千家註批点杜工部詩集』 続翠抄 両足院本続翠抄は…

青野順也(2007.10)終助詞「な・ね」と希望表現

青野順也(2007.10)「終助詞「な・ね」と希望表現」『国学院雑誌』108(10) 要点 上代の終助詞ナ・ネはナが先行し、意味分化はネの成立によるもの 前提 上代の希望表現ナ・ナム・ニ・ネのうち、ナ・ネについて考える 以下の定義付けに基づけば、ナは願望・勧…

山田巌・木村晟(1976.2)『本則抄』について

山田巌・木村晟(1976.2)「『本則抄』について」『駒沢国文』13 要点 駒沢大本『本則抄』の言語的特徴について 本則抄 禅林類聚からの抽出・加注の東国抄物 講述者は「春夕」、「春積」とあり、 位作山陽林寺二世の盛南舜奭(-1541)か、 梅龍山東竹院四世…

小田勝(1991.6)成分モダリティ:中古和文における特殊な句

小田勝(1991.6)「成分モダリティ:中古和文における特殊な句」『国学院雑誌』92(6) 要点 以下がいわゆる「はさみこみ」と異なる、特殊な句であることを示す 白き衣の萎えたると見ゆる着て、掻練の張綿なるべし、腰よりしもに引きかけて、側みてあれば、顔…

小川志乃(2003.3)テヨリとテカラの意味的相違に関する史的研究

小川志乃(2003.3)「テヨリとテカラの意味的相違に関する史的研究」『国語国文学研究(熊本大学)』38 要点 天草平家と原拠本平家において、ヨリ→カラの交替は顕著だが、テヨリはテカラと対応しない テヨリとテカラには意味差があり、それが交替を許容しな…

清水真澄(2014.2)『万葉集』における接続表現:「なへ(に)」の機能と意味関係

清水真澄(2014.2)「『万葉集』における接続表現:「なへ(に)」の機能と意味関係」『中央大学大学院 大学院研究年報 文学研究科篇』43 要点 上代のナヘ(ニ)は、同時並行を表すものではなく、継時的な関係性を表現者の中で関連付ける表現であり、 前件の…

竹内史郎(2008.3)助詞シの格助詞性について:非動作格性と品詞分類

竹内史郎(2008.3)「助詞シの格助詞性について:非動作格性と品詞分類」『語学と文学(群馬大学)』44 竹内(2008)の続き、助詞シの振る舞いについて、同じように活格性の下で理解できることを主張する 上代のシと中古のシ 特に体言シ、シ+係助詞の、名詞…

佐佐木隆(2007.3)続紀宣命と『万葉集』に見える助詞「し」

佐佐木隆(2007.3)「続紀宣命と『万葉集』に見える助詞「し」」『学習院大学文学部研究年報』53 要点 助詞シの用法を万葉集と続紀宣命とで比較したとき、 万葉集の用法が広いだけでなく、続紀宣命独自の用法も見出される 前提 散文と韻文の構文上の差異を知…

田中牧郎(2015.5)明治後期から大正期に基本語化する語彙

田中牧郎(2015.5)「明治後期から大正期に基本語化する語彙」斎藤倫明・石井正彦編『日本語語彙へのアプローチ―形態・統語・計量・歴史・対照―』おうふう 要点 明治後期から大正期にかけて基本語化する語彙には以下の3類がある 口語性の強い語 新概念を表す…

田中牧郎(2015.4)近代新漢語の基本語化における既存語との関係:雑誌コーパスによる「拡大」「援助」の事例研究

田中牧郎(2015.4)「近代新漢語の基本語化における既存語との関係:雑誌コーパスによる「拡大」「援助」の事例研究」『日本語の研究』11(2) 要点 雑誌コーパスの頻度の調査により、漢語の基本語化を捉える 拡大・援助の基本語化は既存語との類似性を高める…

近藤泰弘(2000.2)モダリティ表現の変遷

近藤泰弘(2000.2)「モダリティ表現の変遷」『日本語記述文法の理論』ひつじ書房、原論文は近藤(1993.5)「推量表現の変遷」『言語』255 前提 ム・ラム・ケム・ベシ・マジ・ジ・メリ・ナリの現代語への変遷について考えたい 分類 以下の3分類とする A ベシ…

近藤泰弘(1991.3)中古語におけるモダリティの助動詞の体系

近藤泰弘(1991.3)「中古語におけるモダリティの助動詞の体系」『日本女子大学紀要(文学部)』39、近藤(2000)による 前提 中古語の(広義)モダリティの体系を構文的性格から考えたい 助動詞の分布と従属度 まず、述語としての性格から、とりうる形態の…

鈴木丹士郎(1999.10)近世における形容詞シシ語尾の展開

鈴木丹士郎(1999.10)「近世における形容詞シシ語尾の展開」『近代語研究』10 要点 近世の形容詞シシ語尾には終止法と中止法があり、 終止法が典型的に、強調の場合に用いられた その他形容詞の特殊な用法について シシ語尾の用法 終止法に使われる場合と特…

松尾弘徳(2008.3)因由形式間の包含関係から見た天理図書館蔵『狂言六義』

松尾弘徳(2008.3)「因由形式間の包含関係から見た天理図書館蔵『狂言六義』」『文献探究』46 要点 天理本の因由形式の包含関係は中世末のそれと、天理本の内部変異を反映する 前提 李(1998)の観点に基づき、天理本における因由形式の包含関係を調べたい …