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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

通史

村山実和子(2019.8)接尾辞「ハシ(ワシイ)」の変遷

村山実和子(2019.8)「接尾辞「ハシ(ワシイ)」の変遷」『日本語の研究』15(2) 要点 形容詞化接尾辞ハシは、中古には動詞からの派生、中世・近世に形容詞からの派生を行うようになり、近世以降に衰退する この変化は、同種の形容詞→形容詞化接尾辞の歴史と…

徳本文(2017.3)複合動詞の後項「こむ」の変遷

徳本文(2017.3)「複合動詞の後項「こむ」の変遷」『立教大学日本語研究』24 要点 Vコムは中世から近世にかけて発達する 前提 現代語のVコム*1の用法を参考に、本動詞の意味を保つかどうかを基準として、以下の分類を立てる 内部移動:落ちこむ、食いこむ、…

小川志乃(2003.3)テヨリとテカラの意味的相違に関する史的研究

小川志乃(2003.3)「テヨリとテカラの意味的相違に関する史的研究」『国語国文学研究(熊本大学)』38 要点 天草平家と原拠本平家において、ヨリ→カラの交替は顕著だが、テヨリはテカラと対応しない テヨリとテカラには意味差があり、それが交替を許容しな…

近藤泰弘(2000.2)モダリティ表現の変遷

近藤泰弘(2000.2)「モダリティ表現の変遷」『日本語記述文法の理論』ひつじ書房、原論文は近藤(1993.5)「推量表現の変遷」『言語』255 前提 ム・ラム・ケム・ベシ・マジ・ジ・メリ・ナリの現代語への変遷について考えたい 分類 以下の3分類とする A ベシ…

信太知子(1970.9)断定の助動詞の活用語承接について:連体形準体法の消滅を背景として

信太知子(1970.9)「断定の助動詞の活用語承接について:連体形準体法の消滅を背景として」『国語学』82 要点 連体形+ナリは可能なのに、連体形+ダはないのは、連体形準体法の消滅によるもの また、その消滅過程には、ナリ・ニテアリが文相当句を承接する…

岡﨑友子(2011.11)指示詞系接続語の歴史的変化:中古の「カクテ・サテ」を中心に

岡﨑友子(2011.11)「指示詞系接続語の歴史的変化:中古の「カクテ・サテ」を中心に」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版 要点 指示詞接続語カクテ・サテについて、カクテが衰退し、サテが指示詞の機能を失って接続語・感動詞として展開して…

矢島正浩(2018.5)逆接確定辞を含む[接続詞]の歴史

矢島正浩(2018.5)「逆接確定辞を含む[接続詞]の歴史」藤田保幸・山崎誠編『形式語研究の現在』和泉書院 要点 接続詞の発達には東西差があり、西は接続助詞を接続詞として転用する「並列性」、東は指示詞で先行文脈をまとめる「捉え直し性」として整理さ…

荻野千砂子(2007.7)授受動詞の視点の成立

荻野千砂子(2007.7)「授受動詞の視点の成立」『日本語の研究』3-3 要点 授受動詞の視点制約について、テ形補助動詞に生じた制約が本動詞に影響した可能性があることを示す 前提 敬語形・テ形補助を持つクレル・ヤル・モラウの3語について考える あなたが私…

森勇太(2011.9)授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から

森勇太(2011.9)「授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から」『日本語文法』11-2 要点 クレルが持つ視点制約について、 中古においてはそれが存しなかったこと、クレル・テクレルがタブ・テタブと共通性を持つことを示し、 「話し手を高めな…

青木博史(2004.9)複合動詞「~キル」の展開

青木博史(2004.9)「複合動詞「~キル」の展開」『国語国文』73-9 要点 複合動詞キルの用法が切断→遮断→終結→極度→完遂と展開したことを明らかにしつつ、 九州方言における可能の~キルとの関係性についても述べる 前提 以下のような複合動詞キルの用法は、…

吉田永弘(2016.3)副詞「たとひ」の構文

吉田永弘(2016.3)「副詞「たとひ」の構文」『国学院大学大学院紀要 文学研究科』47 要点 副詞たとひ(たとへ)について、以下の点を示す 位相の偏りが中世後期にはなくなる 意味レベルでは逆接仮定で変わらないが、形式レベルでは主にトモと呼応しつつ、様…

岡﨑友子(2006.4)感動詞・曖昧指示表現・否定対極表現について:ソ系(ソ・サ系列)指示詞再考

岡﨑友子(2006.4)「感動詞・曖昧指示表現・否定対極表現について:ソ系(ソ・サ系列)指示詞再考」『日本語の研究』2-2 要点 文脈を照応しないソ系列指示詞の史的変化について、以下のようなソ系列の周辺的表現が、かつてはむしろ中心的な用法であったこと…

青木博史(2005.7)複文における名詞節の歴史

青木博史(2005.7)「複文における名詞節の歴史」『日本語の研究』1-3 要点 コトを表す補文の名詞節の歴史に、「準体型・コト型・ノ型」の三種を考え、 コト型がその性質を変化させていないことに基づき、 コト・ノによる準体型の補償はなく、むしろノの伸長…

菊田千春(2011.9)複合動詞テミルの非意志的用法の成立:語用論的強化の観点から

菊田千春(2011.9)「複合動詞テミルの非意志的用法の成立:語用論的強化の観点から」『日本語文法』11-2 要点 テミルの非意志的用法の成立に、語用論的推意の前景化による試行の意味の希薄化を想定 問題 テミルは主節において試行の意で用いられ、意志的行…

永澤済(2017.3)複合動詞「Vおく」の用法とその衰退

永澤済(2017.3)「複合動詞「Vおく」の用法とその衰退」『名古屋大学日本語・日本文化論集』24 要点 「Vおく」について、近代に用法が限定化し、生産性が低下したことを示す 問題 近代以前の「Vおく」は生産性が高いが、 現代においては、書き置く、取り置…

小川志乃(2004.6)カラニの一用法:接続助詞カラ成立の可能性をめぐって

小川志乃(2004.6)「カラニの一用法:接続助詞カラ成立の可能性をめぐって」『語文』82 要点 カラ成立の「カラニのニ脱落説」についての検討 従来逆接とされたムカラニを原因理由の一部と捉えることで、カラニが断絶しなかったものと考える 問題 カラ成立の…

間淵洋子(2000.6)格助詞「で」の意味拡張に関する一考察

間淵洋子(2000.6)「格助詞「で」の意味拡張に関する一考察」『国語学』51-1 要点 格助詞「で」の意味拡張について、 特に動作主格(自分でやる)、原因格(風邪で休む)が発達したことを示し、 付加的な格を示す「で」が、中心的用法要素へと参入したこと…

竹内史郎(2006.3)ホドニの意味拡張をめぐって:時間関係から因果関係へ

竹内史郎(2006.3)「ホドニの意味拡張をめぐって:時間関係から因果関係へ」『日本語文法』6-1 要点 時間関係を示すホドニから因果関係を示すホドニへの意味拡張について 特にそのプロセスについて「因果連鎖パターン」の慣習化という観点からの説明を試み…

渡辺由貴(2015.9)文末表現「と思ふ」と「とおぼゆ」の史的変遷

渡辺由貴(2015.9)「文末表現「と思ふ」と「とおぼゆ」の史的変遷」『日本語文法』15-2 要点 近代に定着するモダリティ相当形式の「と思う」と、その前身の「とおぼゆ」について 問題と前提 発話者主体、非過去・非否定という条件で、モダリティ形式として…

金水敏(1991.3)受動文の歴史についての一考察

金水敏(1991.3)「受動文の歴史についての一考察」『国語学』164 要点 非情の受身非固有説を再検討し、以下の点を示す 固有の非情の受身の類型が存すること ニヨッテ受身がその領域を拡張したこと 問題点 非情の受身は固有のものでないというのが通説 論者…

岩田美穂(2007.7)例示を表す並列形式の歴史的変化:タリ・ナリをめぐって

岩田美穂(2007.7)「例示を表す並列形式の歴史的変化:タリ・ナリをめぐって」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 不十分終止由来の並列形式の史的変化についての統合的な分析 問題 疑問由来の例示並列は、不定性を有するために例示の…

吉田永弘(2015.11)「とも」から「ても」へ

吉田永弘(2015.11)「「とも」から「ても」へ」秋元実治・青木博史・前田満編『日英語の文法化と構文化』ひつじ書房 要点 「とも」から「ても」への交替過程とその要因について 「ても」は当初逆接仮定の形式ではなかった 中世後期に助詞「て」+助詞「も」…

吉田永弘(2011.11)タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ

吉田永弘(2011.11)「タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版 問題 タメニの意味が目的になるか原因になるかは、述語の意味と形式によってある程度決まる 意志性述語の無標形→目的:本を買うために…

青木博史(2015.11)終止形・連体形の合流について

青木博史(2015.11)「終止形・連体形の合流について」秋元実治・青木博史・前田満編『日英語の文法化と構文化』ひつじ書房 要点 終止形・連体形の合流に関して、中古は終止形→中世は連体形という見方をせず、文末準体句の広がりから見る 先行論 形態論的な…

山口堯二(1998.10)対比的な複文の前句における「あり」の朧化用法

山口堯二(1998.10)「対比的な複文の前句における「あり」の朧化用法」『京都語文』3 (山口堯二(2000.9)『構文史論考』和泉書院 所収) 要点 複文において、実質的な意味が希薄化したアリが用いられる 雁なきて菊の花さく秋はあれど春の海辺にすみよしの…

青木博史(2018.3)非変化の「なる」の史的展開

青木博史(2018.3)「非変化の「なる」の史的展開」『国語語彙史の研究』37 計算的推論を表す「非変化」の「なる」の史的展開について このあたりは葛飾区になる。 三上の枠組みでは「かみつく」は他動詞になる。 併せて、「対人的行為」を表す「非変化」の…

川瀬卓(2018.5)前置き表現から見た行為指示における配慮の歴史 ほか

川瀬卓(2018.5)「前置き表現から見た行為指示における配慮の歴史」高田博行・小野寺典子・青木博史『歴史語用論の方法』ひつじ書房 要点 行為指示場面における、定型的前置き表現 すみませんが、この書類に署名をお願いします。(恐縮・謝罪) お菓子を作…

青木博史(2011.6)日本語における文法化と主観化

青木博史(2011.6)「日本語における文法化と主観化」澤田治美編『ひつじ意味論講座5 主観性と主体性』ひつじ書房 要点 いわゆる「主観化」に関する批判的検討 これが一方向的な変化かどうか 「文法化」と関連付けられるものかどうか 「~キル」 語彙的複合…

Tomohide Kinuhata. 2012. Historical development from subjective to objective meaning: Evidence from the Japanese question particle ka

Tomohide Kinuhata. 2012. Historical development from subjective to objective meaning: Evidence from the Japanese question particle ka. Journal of Pragmatics 44. 著者Webサイトにプレプリントあり(PDF) 要点 日本語におけるカの間接疑問文の発達…

山内洋一郎(2002.3)ナ変動詞の通時相:ナ変の四段化はなかった

山内洋一郎(2002.3)「ナ変動詞の通時相:ナ変の四段化はなかった」『国語語彙史の研究』21 概説書で「そしてナ変も四段化した」みたいに適当に説明されてることが多いので… 要点 ナ行変格活用の四段化(五段化)に関して、 ナ変の「死ぬ」が衰退してもとも…