ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

杉山俊一郎(2016.9)古代日本語における「にして」の意味領域について

杉山俊一郎(2016.9)「古代日本語における「にして」の意味領域について」『訓点語と訓点資料』137. 要点 ニテとの比較と文体差を考慮しつつ、古代語のニシテの機能について考える。 上代は、 ニシテが多くニテは少なく、 ニシテの用法は場所・時・状態に限…

辻本桜介(2022.4)中古語における間接疑問文相当の引用句

辻本桜介(2022.4)「中古語における間接疑問文相当の引用句」『日本語の研究』18(1). 要点 古代語に間接疑問文は存在しないと考えられているが、間接疑問文に相当する用法を持つ引用句があることを主張する。 まず、間接疑問文の用法を持つことが妥当である…

山本佐和子(2021.3)中世室町期の注釈書における「~トナリ」の用法

山本佐和子(2021.3)「中世室町期の注釈書における「~トナリ」の用法」『筑紫日本語論叢Ⅲ』風間書房. 要点 杜詩抄に特徴的に用いられる、原典の登場人物の発話の解釈に用いられる「トナリ」について考える。 蘇源明トノハ去モノトヲ知リサウタホドニ、酒銭…

山本佐和子(2016.3)五山・博士家系抄物における濁音形〈候゛〉について

山本佐和子(2016.3)『五山・博士家系抄物における濁音形〈候゛〉について」『国語語彙史の研究35』和泉書院. 要点 杜詩抄などの五山・博士家系抄物に、濁音形「ゾウ」があり、 これは、他の文末形式(ヂャ・ゾ)と併用され、周辺的・補助的な注釈内容を示…

大秦一浩(2001.6)上代形容詞連用形の一側面:萬葉集においてミ語法との関係から

大秦一浩(2001.6)「上代形容詞連用形の一側面:萬葉集においてミ語法との関係から」『京都大学國文學論叢』6. 要点 ミ語法を形容詞連用形との関係性から考える。 形容詞連用形を修飾法と中止法に分けると、圧倒的に修飾法が多く、 中止法は並列法(前句と…

岩田美穂(2021.1)述語句並列におけるミ並列の位置づけ

岩田美穂(2021.1)「述語句並列におけるミ並列の位置づけ」『就実表現文化』15. 要点 完了形式系の並列形式は、鎌倉頃にヌ・ツ・タリ(まとめてタリ型)があり、最終的にタリ一形式となる。これ以前に見られるミによる並列が、並列表現史にどのように位置づ…

大秦一浩(2005.9)接尾語ミの並列用法:『あゆひ抄』所説をめぐって

大秦一浩(2005.9)「接尾語ミの並列用法:『あゆひ抄』所説をめぐって」『文芸論叢』65. 要点 「降りみ降らずみ」(後撰集445)のような「ーミーミ」は、動詞見るに由来する接尾語ミの並列と見るのが通説であるが、『あゆひ抄』は、「も家」に立て、「も」…

高橋敬一(1991.3)『宇治拾遺物語』における助動詞「むず」の用法

高橋敬一(1991.3)「『宇治拾遺物語』における助動詞「むず」の用法」『活水日文』22. 要点 宇治拾遺物語におけるムズ・ムの異なり、 ムズには終止形終止の例が少なく(しかも「~ようとする」の意に偏り、テムズ・ナムズのみである)、ムには多い。 ムズに…

木下書子(1991.9)係り結び衰退の経緯に関する一考察

木下書子(1991.9)「係り結び衰退の経緯に関する一考察」『国語国文学研究』27. 要点 係り結びにおいて、係りの語と結びの語との間に意味関係が成り立たない例があり、これは例は少ないものの、全てが異例であるとまでは言い難い。 隠れなき御匂ひぞ、風に…

舩木礼子(2000.10)幕末以降の土佐方言における意志表現・推量表現形式の変化

舩木礼子(2000.10)「幕末以降の土佐方言における意志表現・推量表現形式の変化」『地域言語』12. 要点 土佐方言の意志・推量のロウについて、武市瑞山書簡と『土佐の方言』によって確認したい。 幕末において、 意志・勧誘:未然形ウが多く、一段動詞の場…

近藤要司(2020.11)述部内部の係り結び:連体形ニアリに係助詞が介入する場合

近藤要司(2020.11)「述部内部の係り結び:連体形ニアリに係助詞が介入する場合」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究5』ひつじ書房. 要点 ニアリ構文に係り結びが介入する例の変遷について考える。 間なく恋ふれにかあらむ草枕(万621) 上…

前田桂子(2017.3)近世長崎文献より見る接続詞バッテンの成立について

前田桂子(2017.3)「近世長崎文献より見る接続詞バッテンの成立について」『国語語彙史の研究36』和泉書院. 要点 バッテンの成立についてはバトテ説が一般的であるが、以下の問題がある。 意味の不連続性と、 バトテが已然形に接続する一方で、バッテンが終…

高山善行(1997)否定推量の諸相

高山善行(1997)「否定推量の諸相」『大手前女子大学論集』31. 要点 ジ・マジがある中で、ザラムが必要とされた理由と、ザラム・ザルラムとの関係について考えたい。 小松(1961)に「ザラムがジの文中用法の欠如を補完している」という指摘がある。 ザラム…

菊池そのみ(2022.3)〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開

菊池そのみ(2022.3)「〈付帯状況〉を表す「形容詞+まま」の史的展開」『論究日本近代語2』勉誠出版. 要点 形容詞+ママ(ニ・デ)を以下の分類に分けると、現代語にはAとBがあるが、中古にはAしかない。 A〈随意〉:草葉につけてかなしきままに、…つゆ寝…

ジェネリック『文法と意味Ⅱ』をつくろう

尾上圭介(近刊)『文法と意味Ⅱ』はもう20年ほど「近刊」となっていて、そのこと自体がややネタと化している。 editech.hatenablog.jp 『文法と意味Ⅱ』(近刊)— ネコチャンマンくん (@nekotyanmankun) 2021年2月25日 今日はメリークリスマス!ですね(^^)私は…

片山鮎子(2022.3)宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ

片山鮎子(2022.3)「宮内庁書陵部蔵『論語抄』の原因理由を表す接続形式について:ヲモッテ・ニヨリ・ニヨッテ・已然形+バ・ホドニ」『岡大国文論稿』50. 要点 笑雲清三・宮内庁書陵部蔵「論語抄」(1514成立、1600写)を対象に、以下の5形式の調査を行う。…

杉山俊一郎(2012.5)中古和文における〈原因・理由〉を表す複合助詞の意味記述試論

杉山俊一郎(2012.5)「中古和文における〈原因・理由〉を表す複合助詞の意味記述試論」『論輯(駒澤大学)』40. 要点 中古和文における、アマリニ・ニツケテ・ユヱニ・ニヨリテの4種について、 意味関係の明示性に、以下の2類が認められる。 Ⅰ明示性が弱い…

釘貫亨(1999.12)断定辞ナリの成立に関する補論:万葉集と宣命を資料として

釘貫亨(1999.12)「断定辞ナリの成立に関する補論:万葉集と宣命を資料として」『日本語論究6 語彙と意味』和泉書院. 要点 前稿(釘貫1999)の結論を踏まえ、ナリがニアリから分離する過程を具体的に推定する。 タリ・ナリはともに連体修飾に集中し、ニアリ…

釘貫亨(1999.7)完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立

釘貫亨(1999.7)「完了辞リ、タリと断定辞ナリの成立」『万葉』170. 要点 「どのような文法的条件によってテアリからタリが、ニアリから断定ナリが、また動詞+アリからリを生起したのか」について考える。 タリ・テアリについては、以下の特徴が認められる…

山田潔(2021.12)『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」

山田潔(2021.12)「『玉塵抄』の勧誘表現:「~たらば良からう」「~て良からう」」『抄物の語彙と語法』清文堂出版. 要点 玉塵抄には以下の2種類の勧誘表現(ここでは、「発話者が対者に行為の実行を求める表現」を含む、ややこしいので以下、「勧め」とし…

金沢裕之(1991.12)明治期大阪語資料としての落語速記本とSPレコード:指定表現を中心に

金沢裕之(1991.12)「明治期大阪語資料としての落語速記本とSPレコード:指定表現を中心に」『国語学』167. 要点 明治期中期の速記本、末期の落語SPレコードが、明治期大阪語の資料として有用であることを示す。 コピュラのヤを事例とすると、 近世末期(穴…

吉野政治(1990.7)上代のタメについて

吉野政治(1990.7)「上代のタメについて」『万葉』136. 要点 形式名詞タメは、上代において将来の利益・目的・目標を示し、中古以後に漢文訓読の影響によって受身・原因・理由を表すようになったというのが通説である(岩波古語、時代別など)が、上代のタ…

白田理人(2022.8)北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に

白田理人(2022.8)「北琉球奄美喜界島北部方言の確認要求表現:視覚動詞命令形由来の形式を中心に」『西日本国語国文学』9. 要点 喜界島に見られる以下の確認要求・同意要求表現(三宅2017)のうち、 小野津方言の -sumïː と 志戸桶方言の =miri について記…

篠崎久躬(1996.10)江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」

篠崎久躬(1996.10)「江戸時代末期長崎地方の文末助詞「ばい」と「たい」」『長崎談叢』85. (篠崎久躬(1997.5)「文末助詞:「ばい」と「たい」」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言資料には、バイ・タ…

篠崎久躬(1993.3)江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞

篠崎久躬(1993.3)「江戸時代末期長崎地方の推量・尊敬の助動詞」『紀要(長崎県立長崎南高等学校)』26. (篠崎久躬(1997.5)「助動詞:推量と尊敬」『長崎方言の歴史的研究:江戸時代の長崎語』長崎文献社 による) 要点 当期の長崎方言の助動詞について…

前田桂子(2016.11)肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに

前田桂子(2016.11)「肥前方言の当為表現ンバの推移について:方言書および方言調査を手がかりに」『国語と教育』41. 要点 長崎方言のンバ(<ネバ)が現代では当為表現に偏る(一般的な条件表現に用いられにくい)ことに着目しつつ、その推移について記述…

菅原範夫(1989.12)栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから

菅原範夫(1989.12)「栄花物語の口語的一側面:連体形・巳然形終止などから」『高知大国文』20. 要点 栄花物語には以下のような口語的(中世的)要素が認められる。 地の文のハベリの使用:御おぼえも日頃におとりにけりとぞ聞こえ侍し。 筆録者が読者に対…

篠崎久躬(1964.3)幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして

篠崎久躬(1964.3)「幕末期佐賀地方に於ける「カ」語尾:『滑稽洒落一寸見た夢物語』を中心にして」『国語学』56. 要点 幕末佐賀方言資料の形容詞のカ語尾について、 形容詞終止形・連体形(イ)の箇所に広く用いられる。 「青ヲかきれの赤アかきれのテ」*1…

篠崎久躬(1962.12)幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして

篠崎久躬(1962.12)「幕末期佐賀地方の助詞:「滑稽洒落一寸見た夢物語」を中心にして」『語文研究』15. 要点 『滑稽洒落一寸見た夢物語』、『伊勢道中不案内記』を用いて幕末期佐賀の助詞の記述を行う。 ガ・ノ: 一人称にガ、二人称にノ(軽蔑する場合に…

岩田美穂(2018.1)近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現

岩田美穂(2018.1)「近世末期佐賀方言資料にみられる条件表現」『就実表現文化』12.*1 要点 佐賀方言の条件表現の史的調査を行う。 有田(2007)の枠組み(予測的、認識的、半事実的、総称的、事実的)に拠る。 現代佐賀方言のついての記述によれば、 ギが…