高山善行(2018.3)「上代語の潜伏疑問文をめぐって:「知らず」構文の場合」『国語語彙史の研究』37
主旨
潜伏疑問文の史的なあり方の解明
万葉集の「知る」の否定形を調査。上代語の「知らず」「知らに」は、
- 目的語に指示的名詞句と変項名詞句(非指示的名詞句)が生起し、後者の場合に潜伏疑問文となる
- 指示的名詞句:利根川の川瀬も知らず(3413)/我がここだ偲ばく知らに(4195)
- 変項名詞句(非指示的名詞句):いさよふ波の行くへ知らずも(264)/立てらくのたづきも知らに(3272)
- 「知らず」の方が「知らに」よりも主要部名詞が多様、「知らに」には時間や場所を表す例は少なく、ほとんどが方法・手段を表す
- 目的語に指示的名詞句と変項名詞句(非指示的名詞句)が生起し、後者の場合に潜伏疑問文となる
中古以降に見られる選択疑問節の埋め込みが上代にはないことの指摘
気になること
- 主要部名詞側から見れば、「行方」「たづき」のような、それ自体がWh性みたいなものを含意するものから拡張した、と考えられる
- 「現代語のように、それら(CQ述語)をリストアップするのは容易ではない」(p.3)が、現代語にリストアップされているCQ述語の例から辿るのがやはり手っ取り早い*2
- うつせみは数なき身なり山川のさやけき見つつ道を尋ね〈多豆禰〉な(4468)
- …思ほしき言伝てむやと家問へば〈問者〉家をも告らず名を問へど〈問跡〉名だにも告らず泣く子なす(3336)
読むリスト
- 高宮幸乃(2004)「ヤラ(ウ)による間接疑問文の成立 : 不定詞疑問を中心に」『三重大学日本語学文学』15
- 高山善行(2016)「ケム型疑問文の特質:間接疑問文の史的研究のために」『日本語文法史研究』3, ひつじ書房
その他
「「知らず」じゃなきゃいけない動機が薄いのでは?」とか思って読み進めて実際に少し調べてみて、自分の浅はかさを恥じた