吉見孝夫(2013.12)『後奈良院御撰何曽』「ははには……」の謎々はハ行頭子音の証拠たり得るか
今週のお題「おとうさん」
ということで、
吉見孝夫(2013.12)「『後奈良院御撰何曽』「ははには……」の謎々はハ行頭子音の証拠たり得るか 」『語学文学(北海道教育大学)』52
要点
ハ行子音の変遷に関してよく問題とされる、以下のなぞなぞについて
- (問)母には二度あひたれども父には一度もあはず (答)くちびる(後奈良院御撰何曽)
- 「はは」が現代と同じ[haha]であれば、唇が「二度あう」ことはないので、この頃(天理本『なぞだて』、1516奥書)は[ɸaɸa]であったと解釈できる、とするもので、概説書に頻出するもの
検討を要する点として(いずれも難癖のようではあるが)
- 濁点無表記で本来は「ばばには」である可能性があり、その場合はハ行頭子音が[h]であっても問題ない
- 既にハ行子音が[h]であった頃の『謳曲英華抄』(1771刊)に、ハ行音を「唇を合はす」とするなど、唇が「あう」ことの解釈が不明
- なお、このなぞなぞの祖型として、『聖徳太子伝』(叡山本1454頃)があり、こちらは「母・父」の読みでしか解けない
以上の理由により、
- 「母・父」の読みで解く蓋然性は高いが、この『なぞだて』の謎単体が、ハ行子音が[ɸ]であったことの証拠を持つものではない