ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

神戸和昭(2017.7)『浮世風呂』における「せ゜」「そ゜」をめぐる問題 : 江戸語研究の「常識」と「誤解」

神戸和昭(2017.7)「『浮世風呂』における「せ゜」「そ゜」をめぐる問題 : 江戸語研究の「常識」と「誤解」」『語文論叢(千葉大学)』32

要点

  • 江戸期版本において「さ゜」が/tsa/を写すのと同様に、「せ゜」「そ゜」が/tse/, /tso/とされることがある(旧大系『浮世風呂』中村通夫解説)が、誤りである

浮世風呂の「゜」点

  • 「さ゜」の例は「おとつさ゜ん」などに見られるが、
  • 「せ゜」はそもそもなく、
  • 「そ゜」は一例のみある(なそ゜とき)が、座頭の田舎詞による「仙台浄瑠璃」の使用例で、江戸語のものではない

「せ゜」の実例に関して

  • 滑稽本『素人狂言紋切形』(1814)に、江戸語話者による「形(なり)は小せ゜へが」の例あり
    • ただしこれは、「ツェ」の音ではなく「チェ」を表したものと見るべき
    • また、同じく三馬の『七癖上戸』にも「ちつせ゜へ妹めェ」の例があるが、これも通常の江戸語音声の例ではない(注8)