竹内史郎・岡﨑友子(2018.1)「日本語接続詞の捉え方:ソレデ,ソシテ,ソレガ,ソレヲ,ソコデについて」『国立国語研究所論集』14
要点
- 指示詞を含む接続詞に関して、照応関係のあり方と統語環境からの整理を試みるもの
田村(2005)*1
- モーダルな助動詞の焦点についての制約として、
- 「モーダル助動詞の焦点が話し手自身の属性・内的状態や過去の直接体験に置かれた場合,その文は不自然になる。」
- 「それで」の場合、
- ?私はお腹が痛くなったのだろう。
- しかし、「私は賞味期限切れのケーキを食べた。それで,お腹が痛くなったのだろう。」は可
- だろうの焦点が「それで」という両者の関係にあるため
- 「そして」の場合、
- ?私は賞味期限切れのケーキを食べた。そして,お腹が痛くなったのだろう。
- 顧客がプログラムのバグを指摘した。そして,担当の山下が修正作業を行ったのだろう。
- 先行文の事態と後続文の事態の両方が焦点になる
- すなわち、 *2
整理
- ソレデに関して、
- もっと言えば、「ソレデ」は複数文との照応関係をもつので、
- 一方、ソシテに関しては直近の文にしか照応がない
- 推測だけど,顧客がクレームを山下に伝えた。そして,山下が顧客に言い返したんだろう。
- ?推測だけど,私が顧客のクレームを山下に伝えた。そして,山下が顧客に言い返したんだろう。
- 推測だけど,私が顧客のクレームを山下に伝えた。そして,山下が顧客に言い返したんだ。
- 推測だけど,私が顧客のクレームを山下に伝えた[直接体験]。山下は顔を紅潮させた。そして,山下は顧客に言い返したんだろう。*3:先行文の遠い方にのみ直接体験を含むようにすると自然
- ソレガは一見、照応関係を持たないように見える
- 私はプログラムのバグを指摘していた。それが,関係者に私の指摘が伝わっていなかったのだろう。
- が、モーダル助動詞よりもスコープの広い疑問助詞を使うと、
- ?私に顧客の指摘が伝わっていなかったのか。:通常、直接体験が入ると不自然
- 顧客がプログラムのバグを指摘していた。それが,私に顧客の指摘が伝わっていなかったのか。にわかに信じられないよ。:2文になれば自然。なのですなわち、
- かつ、先行文に非状態性の文がくるとすわりが悪くなる
- スタッフたちの協力もあり準備は完ぺきに{?整った/整っていた}。それが,突風が襲ってきて,店の看板や飾り付けが吹き飛ばされることになってしまって。
- これは、ソレガの代示要素が直近の「文脈的結果状態」*4と照応関係にあることの現れか
- ソレヲは複数文との照応が可能で、非状態性でも可能
- 友人の協力もあって新装開店の準備が{整った/整っていた}。それを,例のヤクザがやってきて,お店をめちゃくちゃにしてしまった。
- 推論によって形成される状況(「友人の協力もあって新装開店の準備が整った」後の状態)と照応関係にあると考える
- 「ソレデ」の「ソレ」も状態性・非状態性の両方が可能なので、同様の機能を持つと考えられる
- 顧客はプログラムのバグを指摘した。担当の山下が顧客の指摘を聞き入れた。それで,山下の部下が修正作業を行ったのだろう。(非状態性)
- 長男はおたふく風邪。次男はインフルエンザ。妻は持病で寝込んでいる。それで,私は今回の出張をキャンセルした。(状態性)
- ソコデ*5は、直近複数文、状態性のみだが、疑問助詞の統語的スコープの外にある
まとめ
- 代示性のある接続詞が、照応の働きを有する場合でも、その働きが均質であるとは限らない
- 史的変遷に関して言えば、
- 本来は指示詞「ソ」の機能が認められるはず
- 照応の観点から言えば、ソレデ・ソレヲが機能ありのまま→ソレガ・ソコデ→ソシテ
- 統語的なあり方から言えば、ソレデ・ソシテがありのまま、→ソレヲ・ソレガ→ソコデ
- 他、参与者を必要とする新用法もあり、間主観化と関わるか
- それで,さっき話した件,どうなった?/それが,さっき話した件,うまくいかなかったよ。