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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

佐伯暁子(2017.3)平安時代から江戸時代における「~ヲバ~ヲ」文について:二重ヲ格との比較も含めて

佐伯暁子(2017.3)「平安時代から江戸時代における「~ヲバ~ヲ」文について:二重ヲ格との比較も含めて」『岡大国文論稿』45

ヲバ~ヲの類型

  • 対象ヲバ対象ヲ:女御殿、「笛をばこそ聞け、見るやうやは有」とて(栄花)
  • 相手ヲバ内容ヲ:適ニ出入スル人ヲバ姓名問ヒ(今昔)
  • 経由点ヲバ経由点ヲ:瀬田をば稲毛の三郎重成がはかりごとにて、田上の供御の瀬こそ渡しけれ。(百二十句本平家)*1
  • 対象ヲバ起点ヲ:この人をば家・町・国・知行・所払うた。(ロドリゲス大文典)
  • 対象ヲバ経由点ヲ:定めて首をば小路渡されうず。(ロドリゲス大文典)
  • 被使役主ヲバ対象ヲ:外追の衆生をば覚悟生(ぜ)令(めむ)との故(に)なり(法華経玄賛平安中期点)
  • 被使役主ヲバ起点ヲ:に聞くに堪(へ)不者をば退(か)シムルなり。(法華経玄賛平安中期点)

変遷として

  • そもそも用例が少ないが、今昔にはやや多い
  • 衰退時期は、ヲバの江戸時代以降の衰退と一致
    • ヲバが和文で用いられないことと並行して、和文に少ない
  • 漢文訓読のものが多い*2
  • 対象ヲバ内容ヲが過半数
  • 被使役主ヲバ対象ヲ・被使役主ヲバ起点ヲ、は二重ヲ格には見られず、その10/13が漢文訓読に見られるもの

気になること

  • 現代における非文的な二重ヲ格との関係性を重視するとき、並列関係を持つ場合に自然になること、ヲの位置が離れると容認度が上がる(加藤2006)*3ことを考えるとき、上の平家の例はどうかなという感じがする

*1:対象ヲバ経由点ヲ、の誤りか?

*2:比較の仕方に難あるが

*3:加藤重広(2006)「二重ヲ格制約論」『北海道大学文学研究科紀要』119