山口響史(2015.10)補助動詞テモラウの機能拡張
山口響史(2015.10)「補助動詞テモラウの機能拡張」『日本語の研究』11-4
要点
- テモラウのヴォイス体系内での拡張に関して
- 対立的な2種のテモラウ
- 恩恵的(受益型):プレゼントを買ってもらう
- 迷惑的:そんなこと言ってもらっちゃ困る(→受身的)
- 使役的な(サ)セテモラウ
歴史記述
- 本動詞モラウは、「乞い求める」意から「受け取る」意へ、近世前期には話し手に視点制限がかかる
- 以上より「モラウ」は、(p.4)
- Aタイプ 主語が与え手に対して「乞い」,対象物を受け取るもの。
- Bタイプ 主語が与え手に働きかけず,与え手の動作の結果対象物を受け取るもの。
- テモラウについて、
- 後接語に注目すると、成立初期は意志・願望表現が多いが、徐々に低下する
- これはモラウの意味特徴に矛盾しない
- モラウのタイプと対照すると、やはりA→A・Bへの拡張が見られる
- A’タイプ 主語が事前に事態の参与者に対して働きかけ, 事態が生起するもの。
- B’タイプ 主語は,事前に事態の参与者に対して働きかけず,与え手を起点として生起した事態の影響を受けるもの。
- 近世前期から近世後期に条件節内に入る例あり
- 意志・願望・依頼などの制限の緩和と並行する
- 格表示についてもモラウと同様の分布。与え手の格の非表示・ニ格(A')から、ガ・ヨリ・カラなど(B')へ
- 後接語に注目すると、成立初期は意志・願望表現が多いが、徐々に低下する
- 迷惑型のテモラウについては、マイの後接するものか、接続助詞を後接するものに分かれ、A'→A'・B'の流れで捉えられる
前接動詞は自動詞が遅れ、使役助動詞がさらに遅れる
- 自動詞が許容されるのは与え手の意志的な動作が必然的でなくなるため、使役助動詞に関しては許可求めにしか用いられないので、「他動性の低下」の流れに沿う -ヴォイス体系内での拡張に関しては、
- 近世期に受身の例が現れる(慈悲なら斬つてもらはう)
- 近世の(サ)セテモラウは全て主語が話者で「主格Xガ被使役者YニV(サ)セテモラウ」の構造を取る *1
まとめとして、
*1:ただし、「テモラウ文における「主語が与え手に対し事前に働きかけるもの(A'タイプ)から働きかけないもの(B'タイプ)への拡大」から起きた「迷惑型の成立」は,モラウに観察された「乞う」意味の希薄化の帰結として説明可能」(p.14)とあるが、意味の希薄化はあくまでも前提条件で、変化要因ではない?
*2:筋道としては、あくまでも補助動詞成立の現れが主語制限制約の解除なのであって、ここ(3行目)を全く同じタイミングで見ていいかというと違うような気もする。(S1ガ)Vテ(S1ガ)モラウの慣用によって主語制約が背景化することによって、そうでない(S1ガVテS2モラウ)ものが現れ得る(補助動詞として成立し得る)、という順番で見るべきか。