田中章夫(1998.10)「標準語法の性格」『日本語科学』4
要点
- 文法形式の標準語らしさ・方言らしさを以下の3タイプに類型化し、
- 累加型・段階型
- 単能型・多能型
- 微差消滅型・微差保有型
- これらがどのような歴史的経緯の所産であるかについても述べる
対照される型
- 累加型・段階型:複数の要素で表すか(分析的か)、一つの要素で表すか
- なければならない/ブタンナネケヅー(山形)、シェンバジャルケン(長崎)
- ないだろう/ナリヨラマイヨ(愛媛)
- ではないか/ワラッタジャンカ(長野)、イッタッケジャ(静岡)、エドナテ(青森)
- ことができる/拝ミエル(愛知)
- たことがある/ノゾッテミタッタ(群馬)
- てしまう/チマウ・チャウ(千葉)、取イトッタ(鹿児島)
- 単能型・多能型:一つの語形が一つの機能を持つか、複数の機能を持つか*1
- 微差消滅型・微差保有型:微妙な差異が消滅したか、区別が残るか
史的観点から見ると
- 累加的表現に関しては、
- 機能の分化と単純化に関しては、
- う・よう(推量・意志・勧誘)の推量用法の喪失
- 丁寧体でも同様に、ましょう→ますだろう/でしょう→でしょう
- 受身・可能・尊敬表現の分化(レル・ラレルの受身専用化)
- 仮定条件と既定条件の分化
- これらは江戸・明治を通して起こった変化で、「江戸の都市形成と,維新期以降の東京への人口集中のプロセスで,まず江戸語において多能型の表現が崩れ,単能型への分化が始まって東京語で促進され,のちの標準語に引き継がれていったと見ていいように思う」(p.68)
- 微差の消滅については、
- 格助詞ノ・ガの尊卑:江戸期には既にない
- 未然+バ/已然+バの使い分けは江戸語的というよりは中世語法の残存
- 「いずれにしても,上方をはじめ,さまざまな地域から人々が集まって形成されてきた江戸ことばでは,それまでの日本語に見られた,種々の微妙な差異は,すでに失われつつあったといってよいようである」(p.70)
- これらをまとめると、