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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

京健治(2015.3)シシ語尾形容詞と「不十分終止」

京健治(2015.3)「シシ語尾形容詞と「不十分終止」」『岡大国文論稿』43

要点

  • 室町以降における、いわゆる「不十分終止」に関して、
    • 耳も遠し、目も悪し、中にも、腰がかがうて、月日が、拝まれいで、是が迷惑な(狂言六義・腰折)
    • 実盛心は猛けれども、老武者なり、手は負う、二人の敵をあひしらはうとするほどに、手塚が下になって、つひに首をとられた。(天草平家)
  • シク活用の場合に、旧終止形であるシでなく、シシ語尾で現れることがあり、この意義を考える
    • ことしはあしゝ来年はよし(軽口露がはなし)
    • シシ語尾:「つよい:つよし→はげしい:はげしし」のように、シク活用の口語終止形のイがシに置き換えられたもの

形容詞終止形と不十分終止一般

  • 形容詞終止形に関して、
    • 天草平家では、ク活用の「~シ」に不十分終止の例があり、シク活用の「~シ」にはその例がない。「~シシ」にのみ1例見られる
      • もとよりあらがはぬうへに責めはきびしし、残りなう申したを白状四五枚にしるいて、
  • 形容詞の不十分終止を概観すると、
    • 平安期・院政期に数は少ないものの、「~シ」語尾での不十分終止がある
    • 鎌倉にはシシ語尾での使用例も見られるようになる
    • 室町期以降では「~シ」語尾ではなく、「~シシ」語尾にのみ見られる

シシ語尾による不十分終止の問題

  • 室町以降に「シシ」に移るのがなぜか、という問題を考えるにあたって、以下の2点を考える
    • 「不十分終止」と語彙的特徴との関係
    • 「不十分終止」多用とその時期
  • 古典語の不十分終止は、「~は~終止形」などの条件句によって原因・理由を示す用法が多い
    • 敵はすくなし、みかたはおほし、勢にまぎれて矢にもあたらず(平家)
    • 形容詞の不十分終止ではク活用が圧倒的に多いが、それはシク活用形容詞の語彙的性質(感情形容詞)が原因・理由になりにくいため
      • シク活用のものも、状態性の意味合いが強い(文脈での)「悪しし」「はげしし」などから見られるので、状態的なものからスタートしたと考えられる
  • 「シシ」の不十分終止に関しては、終止・連体形合一が「シシ」の不十分終止に影響を与えたと考える
    • 「連体形使用の形が通常の終止法となるに伴い、「不十分終止」は「一シ」語尾であることがより顕著になったものと推測される」(p.64)*1
      • 小さい(口頭語終止形)*2:小さし(不十分終止)
      • はげしい(口頭語終止形):はげしし(不十分終止)

*1:院政期に不十分終止が広がる」こと、一方で「ク活用に比してシク活用の不十分終止が遅れる」ことが時期的に「シシ」発生の時期とマッチして、「シ」より「シシ」を取りやすくなることを引き起こす、という解釈でよいのか?記述が曖昧でよく分からなかった

*2:終止連体形か、終止法とする方がよいと思う