原田大樹(2009.12)昭和30年代の共通語指導における「懲罰」と「奨励」:鹿児島県の方言札・表彰状等を通して
原田大樹(2009.12)「昭和30年代の共通語指導における「懲罰」と「奨励」:鹿児島県の方言札・表彰状等を通して」『広島大学大学院教育学研究科紀要 第2部』58
要点
- 懲罰としての方言札が強調されがちだが、実はそうではない共通語使用の奨励という側面もあったことを、昭和30年代の鹿児島を事例として指摘
- 方言札ってこんなやつ(イメージもまさにそれ)
昨日、沖縄平和祈念公園資料館で見た「方言札」(複製)。学校で沖縄の言葉を使った子どもの首にかけられた。明治期の同化政策の中で始まり、昭和の総動員体制で盛んになった。「皇国の臣民」と意識させるためには言葉を同じにする必要があったのだ。 pic.twitter.com/avm8fAQ7sv
— 香山リカ (@rkayama) 2016年7月17日
事例
- これまで方言札的指導については、方言使用に対する「懲罰」の側面のみが取り沙汰されてきたが、共通語指導という見地からは、共通語使用の「奨励」という側面も明らかにしておく必要がある
- 懲罰的事例
- 川尻小学校:「方言札」「アクセント札」を教師が児童の首にかけるシステム。ただし、児童の意欲は十分に保てず、長期にわたる方言札の使用は避けている。
- 他、「赤だすき」をかけた事例もあるが、一次的効果しか見られない。日誌・全体朝礼での指導も行われた。
- 可愛小学校:「ことばの札」「ことばの玉」を児童同士でやり取りさせるシステム。「よいことばを使った者には白い玉をわたし、ことばづかいの悪い者をみつけたら赤い玉を渡たす」
- 坊泊中学校:「カード」を生徒間で渡すシステム(同上)。特に語彙の方言矯正に用いられる。
- 川尻小学校:「方言札」「アクセント札」を教師が児童の首にかけるシステム。ただし、児童の意欲は十分に保てず、長期にわたる方言札の使用は避けている。
- 奨励的事例
- 徳光小学校:「ことばのよかった学級や努力している学級」を選定して、校長が「奨励札」を与えるシステム
- 大丸小学校:「正しいことばに努力する学級」を表彰する「学級表彰札」を与えるシステム。大丸小では個人表彰も行っており、表彰の基準には共通語使用のみならず他児童の方言矯正も含まれた。
- 他、学級ことば委員のつける「胸章」システムもあったが、「委員が調査にまわるとだまって」しまうなどの弊害があり、効果は上がらなかった。教師の判断による「赤い札」も、評価がまちまちで手間もかかるため、長続きしなかった
- 川上小学校:部落別に「表彰状」を贈るシステム。個人に対しても行っている
- 可愛小学校:懲罰だけでなく「星取表」による評価も行った
まとめ
- 共通語指導に関して児童の意欲喚起が重要であったために、懲罰だけでなく奨励という方法を用いた
- 戦前の教師主導型から、戦後の児童中心の指導への変化がその要因か