山内洋一郎(2002.3)ナ変動詞の通時相:ナ変の四段化はなかった
山内洋一郎(2002.3)「ナ変動詞の通時相:ナ変の四段化はなかった」『国語語彙史の研究』21
概説書で「そしてナ変も四段化した」みたいに適当に説明されてることが多いので…
要点
- ナ行変格活用の四段化(五段化)に関して、
- ナ変の「死ぬ」が衰退してもともと存在した四段の「死ぬ」が前面に出たものとして解釈することで、
- 「終止形が連体形を圧倒して用法を拡大する」という例外的現象を(そんな現象はなかったものとして)説明する
通時観察
- 上代、イヌはイナ・イニ・イヌ・イヌルに仮名書があり、助動詞ヌもナ・ニ・ヌ・ヌル・ヌレがあるが、シヌにはシナ・シニ・シヌ・シネのみでナ変の確例がない
- 四段だったシヌが、「シニイヌ」としてナ変になったのではないか
- 二音節動詞は上平・平上の二種類だが、名義抄のシヌに上上の例がある。これを、シニイヌからの転成として見る
- 平安初期点本にシヌルの例あり*1
- 院政期、「中古にはシヌはヌに接続する例がない」とされるが、今昔、宝物集などにシニヌの例あり
- 中世、延慶本の「死ヌ習ナレバヤ」の例は、「シナヌ」と読むべき例*2で、四段化は否定される
- 日蓮書状では四段であり、雑兵や江戸文学で四段が基本であることから、東国では四段であったと見る
- 室町時代、蒙求抄の「死ヌ_\サキノコトソ」、「舒ハ死ヌ__ソ」の例は、前者には寛永版本に「死ナヌ」の傍訓があり、後者も文脈的に*3「シナヌ」と読むべき例
- 一方、東日本語資料では、月庵酔醒記*4に「しねばいくる」「しぬものゝのどおす」、碧巌講義に「死ヌモノハ主丈子獨今我手ニアル。」
- 方言(GAJ)では、
- シヌルが中国・四国・九州に分布
- シヌは東日本から西日本、中国地方東部、四国東部、九州西部
まとめ
- ナ変は本来イヌ一語で、シヌはもともと四段、ナ変シヌはシニイヌ→シニヌ→シヌ
- 日本全体で用いられていた四段シヌが、ナ変シヌの衰退に伴って「日本語の表面に出た」と解釈する