坂口至(2001.4)近世中期上方歌舞伎脚本資料に見えるナ変・下一段の四段化について
坂口至(2001.4)「近世中期上方歌舞伎脚本資料に見えるナ変・下一段の四段化について」迫野虔徳編『筑紫語学論叢 奥村三雄博士追悼記念論文集』風間書房
要点
- タイトルまんま
ナ変の四段化
- 当期のナ変の四段化率は低い*1
- イヌの方がシヌよりも進んでいる
- 「イキル」と「シヌル」の三音節の対がペアとして意識されたために、シヌが遅れたと見る
- 終止連体形よりも已然形の方が進んでいる
- 二段活用の一段化の場合は終止連体形の方が早い(已然形の使用頻度の低さが問題か)
- ナ変の場合、使用頻度の問題よりも、「シヌ」「イヌ」が本来的に持つ四段活用性(未然形・連用形が四段と同じ)の影響が大きかったか
- 町人の方が武家よりも進んでいる
- 男女差はないが、女性では遊女などのほうがやや進んでいる
下一段の四段化
- ナ変と比べれば、四段化が進んでいる
- 四段化を起こしていないものには複合動詞が多い
- けこかす、けこむ、けころす、けつまずく、けちらかす、など
補足、歌舞伎資料の取り扱いについて
- 2節に歌舞伎資料の国語史資料としての難しさが述べられているのでメモしておく
- 「服部幸雄氏は、「はっきりいって、歌舞伎の台帳というのは、国語学の研究資料としては極めて扱いにくいいくつかの性格を持っている」と述べ」、その理由としては、
- 原作者の自筆のものがまれ
- 分担執筆が多く、作品に統一性がない
- 演技全体に伝統的な類型があるので、当時の口頭語かどうか疑問
- 「変化の時期を云々する資料としては使えないであろうが、変化の過程を明かにするための資料とはなり得る」とし、初演台帳の写しのものに限定して以下の作品を挙げる
*1:あくまでも「四段化」として、ナ変・四段交替説は採らない。