衣畑智秀(2007.7)「付加節から取り立てへの歴史変化の2つのパターン」青木博史(編)『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房
要点
- 係り結び、間接疑問文はいずれもその成立に注釈節が想定されるが、異なる特徴(係り結びは直接疑問)を持つ
- 「注釈節のようないわば付加節を構成していた要素から主節内の要素への変化」に2つのパターンがあることを主張
話の前提となるカの係り結びに関しては、 hjl.hatenablog.com
カの間接疑問文に関しては、 hjl.hatenablog.com
2つのパターン
- 格助詞の接続可能性に求める
- 係り結びは格助詞が前接:鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ(万223)
- →係助詞は名詞句の一部ではない
- 間接疑問文は格助詞が後接:おほいやらうすくないやらうをば知り候はず。(覚一本平家5)
- →ヤラが名詞句の一部と解釈されている
- 係り結びはカが主節動詞に付加できる:やすみししわご大君の大御舟待ちか恋ふらむ志賀の唐崎(万152)
- 係り結びは格助詞が前接:鴨山の岩根しまける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ(万223)
- 注釈構文から係り結びが発生したと考えれば、その過程を次のように図示できる
- 「節間の構造関係ができれば、複数の節(biclause) を単一の節(monoclause) にしようという単純化が歴史変化の動機として考えられる」
- 文末カ→係り結びのカの変化で、カの意味機能はスコープ表示から焦点表示へと変化したと考える
- かきまぜ操作によって動詞を焦点化(待ちか恋ふらむ)することができる
- 間接疑問文の発生には以下の経緯を想定する
- 14と異なり、文同士が、明示的な(連体形で終止するような)構造関係を持たない
- 節間の構造関係がないので別の動機づけが必要で、それは「ヤラによる注釈節で表される不定的内容と、被注釈節の述語が持つ潜伏疑問名詞句の共指示関係という、意味論的・語用論的動機」
他の変化と関連付けて
- ここまでのまとめ
- まず、変化の違いとして、
- 係り結びは、注釈節と被注釈節が構造関係を作り、構造の単純化、及び、要素の移動という統語的要因が関与する変化
- 間接疑問文は、注釈節と被注釈節が構造関係を作らず、共指示関係という意味・談話的要因が関与する変化
- 結果として、
- 係り結びは格助詞に後接、動詞の焦点化可
- 間接疑問文は格助詞に前接、動詞の焦点化不可
- 2つの節の一方が他方の節の要素へと変化するとき、構造関係を持つなら前者、持たないなら後者、という変化が起こるという予測
- 前者の事例として、ナリトモの副助詞化の事例
- トモによって「構造関係を持つ」と見る
- 格助詞前接の例、動詞焦点化の例あり
- 後者の事例として、不定と例示の事例
雑記
- 3ヶ月ほど続けてみて感じたこと
- やってよかったこと
- 明らかに人生で一番勉強している
- 講義資料や発表資料・論文にそのままコピペできて楽
- やってよくなかったこと
- これだけやって、あとはゲームしてる間に一日が終わったりすることがある(→論文は1日1時間、とか決めないといけない)
- 既に忘れ始めている(→目次を作ります)
- PDFにした論文を消化しよう、という意図があったが、むしろ未読分が増えている
- なぜかさよならホットナンバンが一番よく読まれているらしい