ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

鈴木浩(1990.9)接続助詞「し」の成立

鈴木浩(1990.9)「接続助詞「し」の成立」『文芸研究(明治大学文学部紀要)』64

要点

  • 接続助詞「し」の成立に関して、
    • 仕事はない、他にすることもない
  • 不十分終止から発生したとする考えがあるが、そこを詳しく検討する

「マイシ」に関して

  • 初期の例は「マイシ」から発生し、「ウ」は遅れる
    • 付たらは松を取まいし、ゑ付ずは松をとらふ(虎明本・ふじまつ)
  • この前身として、不十分終止が想定され、特に、口語終止形がイになる頃でもシが使われる傾向のある点に注目
  • マイシの発生に関して、マイ側とシ側から考えると、
    • マイ側:マジ・マジイ・マイの中で、(古形が残る予想に反して)マジに不十分終止は少なく、特にマイが多い
    • シ側:シシ語尾に現れるように、「不十分終止」が「語尾を文語系のシにする表現」であったと意識されがちであったと考える
      • 四河入海の「マジシ」(<マジイ)が顕著
  • 以上より、マイシは、不十分終止として用いられたマイ+不十分終止のシによるものと見てよい
    • ではマシ(<マシ)でもよかったようにも思えるが、マイが当初から不変化であったこと

それ以降の広がり

  • まず、マイ→ウに広がる
    • 推量・意志の肯定否定の関係にあるため
    • 不十分終止にウズが用いられていたので、マイより遅れをとったと考える
  • 動詞接続の例は早く、形容詞接続は遅い
    • このことが、シが形容詞によるものを裏付ける
    • 従来通りの「足は遠し、便りはなし」(梅児誉美)のような例が普通にある
  • 柏原(1979, 1980)*1は、「~して」の「て」脱落を想定するが、受け入れがたい
    • 春の日はのとけくよつく万ぶつをしやう〳〵す(幸若舞
    • 語り物的文語文にしか出ないことが、後の口語と合致しない
    • マイシテの形もない

*1:「接続助詞「し」の成立をめぐって」『田辺博士古稀記念国語助詞助動詞論叢』桜楓社、「接続助詞「し」の成立についての補遺考」『国語研究』43