高山善行(2016.5)「中古語における疑問文とモダリティ形式の関係」『国語と国文学』93-5
要点
- 古代疑問文におけるモダリティ形式について、特に以下の3点を問題とする
- 疑問文におけるモダリティ形式の多用
- モダリティ形式の働き
- モダリティ形式の有無による疑問文の性質の異なり
古代語疑問文とモダリティの問題
- 近藤(1987)*1以降、古代語疑問文がモダリティ形式を伴いやすいことが知られている
- 調べてみると、竹取81.7%、低くても枕64.4%で、確かに多い
- ここで以下の3点の疑問が生じる
- 疑問文におけるモダリティ形式の多用の理由
- 疑問文中におけるモダリティ形式の働き
- モダリティ形式の生起の有無による疑問文の性質の異なり
- 従来は疑問文を分析装置として、モダリティの分析を行っていたが、本稿では逆に、モダリティ形式を分析装置として疑問文を分類するという方法を取る
分析
- モダリティ形式の生起の有無で2つのタイプに分ける
- Aタイプ(生起):いづくにか住むらむ(大和)
- Bタイプ(非生起):いづくにか住むφ(枕)
- Aタイプは条件文と親和性があり、帰結節になれるが、Bは用いられない
- かれが絶えば、何にかならむ。(枕)
- 条件文帰結のモダリティ自体に制約があり、基本的にそれに従う
- 生起:ム・マシ・ベシ/非生起:メリ・終止ナリ・ラム・ケム
- このうちラム・ケムはAに生起できるが、条件文帰結では非生起。原因推量の用法を持つので、非現実性の濃い条件文の仮定的意味と相容れないためか。
- 中古には、節ごとに非現実性のマークをつけるという表現方法があり、自体の現実性・非現実性の対立はφ・モダリティ形式の対立で明示される
- 思はむ子を法師になしたらむこそ、(枕)
- さて思ひ返したらむは、わびしかりなむかし(枕)
- 疑問文におけるモダリティ形式も非現実性表示のラベルとして理解可能
- Bタイプは以下の点で現場性が認められる
- 対話場面が目立つ
- 存在詞の使用が多い
- 述語は基本形・キ・ツが多い
- 「と問ふ」などで質問文であることを明治
- ダイクシスが目立つ
- 以上より、
- Aタイプは、
- 地の文・心内文で用いられ、話者の想像する事態を対象とする
- 対聞き手性が抑制され、「疑い」に傾く
- Bタイプは、
- 主に会話文で用いられ、実際に現場にある事態を対象とする
- 対聞き手的で、「問い」に傾く
- Aタイプは、