村田菜穂子(1996.10)「ケレドモ」の成立:「閉じた表現」への推移と不変化助動詞「マイ」成立との有機的連関を見据えて
村田菜穂子(1996.10)「「ケレドモ」の成立:「閉じた表現」への推移と不変化助動詞「マイ」成立との有機的連関を見据えて」『国語語彙史の研究』16
要点
- 「ケレドモ」の成立に、ドモの肥大化を背景とする、「マイケレ+ドモ」から「マイ+ケレドモ」への異分析を想定する
全体的な傾向として
- 「ケレ」について、以下の諸説あり
- 形容詞已然形の活用語尾説
- 過去の助動詞「けり」已然形説
- 打消推量の助動詞「まじ(まい)」已然形の活用語尾説
- 形容詞「なし」已然形の活用語尾説
- 条件表現体系の変化を見たとき、
- 仮定条件と確定条件にば・とも・どもがまたがって使われることが近代に至ってなくなる
- 近代語の確定条件は独立形(終止形)を用い、仮定条件は非独立形を用いるという二分化があるが、古代語にはそれはない
- 古代語では時間と活用形が密接な関係にあったが、近代語ではそれがなくなった、と見る
- 「近代語に至っては、仮定条件表現の前件というものが後件に対して修飾成分的であるために非独立形が当てられ、これに対して、確定条件表現の前件というものが後件に対して独立的であるために独立形が当てられるということであろう」
- ケレドモ成立と前後して、ナレドモ・アレドモ・スレドモなどが接続詞化する現象が見られる
- 「ドモが上接部を取り込んで肥大化する」もの
- これ以前の段階では「なり」などと上接部との切れ目が曖昧
- ケレドモに関しても「なれ+ども」などと同様「けれ+ども」と分析すべき状態であったと考えられる
- 接続助詞・接続詞の肥大化としては、アルガ・シタニ・シタレバ・ヂャガ・タラバ・ナラバ、など
- これらはいわゆる「論理の明晰を主とする文体」への志向に即する
ケレドモの成立
- ケレドモについては、「マイケレ+ドモ」が「マイ+ケレドモ」と異分析されたものと考えるが、そのためにはケレがマイと遊離することの蓋然性がなければならない
- まず、マイに関して、已然形はマケレとなるべきであるが、実際にはマイケレである
- これは、マイの前身がシク活用であったことが影響する
- マジ>マジキ>マジイ/ベシ>ベキ>ベイ の変化の中で、相互に影響しあって「マイ」(と「ベシイ」)という新形が生じたために、語幹が2音節の「マイ」として認識されたもの
- 已然形マイケレは①コソの結び、②マイケレドモ の職能を担うが、この頃係り結びは衰退するので、②「マイケレドモ」として固定化する
- さらに、条件表現体系では確定条件が已然形から終止形へという独立的形態へと推移する状況で、マイ(終止)+ケレドモが成立したものと見る
- 順接の「ケレバ」についてはマイケレバを想定することができないので、他のルートとして過去の助動詞「けり」が想定されるか
- よほど心を付んけれバ、出来ません。
雑記
- 無標・有標の話をするときはだいたいムヒョとロージーの魔法律相談事務所のことを考えている