ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

林禔映(2018.3)評価副詞の成立と展開に見られる変化の特徴

林禔映(2018.3)「評価副詞の成立と展開に見られる変化の特徴」『近代語研究』20

要点

  • 「いっそ・さすがに・しょせん・せっかく・どうせ」を対象として、評価的意味を持つ副詞の形成に見られる変化の諸相を類型化する

意味変化として

  • 変化前の語義・形態
    • 名詞→副詞
      • いっそ:一対を表す「一双」が、まとめて、一度にの意を持つようになり、この様態的意味が次第に薄れる
      • しょせん:「仏教の経典によって説き明かされる内容、究極のところ」の意の漢語「所詮」が、結局、つまりの意へと変容
      • せっかく:ある目的のために労力を費やすことを表す漢語「折角」に由来
    • 不定語+動詞→副詞
      • どうせ:「どう+せよ」の命令形が逆接仮定条件を表し、どのような場合でも、どっちみち、の意を獲得
    • 接続詞相当→副詞
      • さすがに:「指示副詞さ+動詞す+助詞がに」で、「そのようにあるほどに・それ相応に」の意。指示副詞の照応機能により、もともとは接続詞。接続詞「しかすがに」にも類似する。
  • 文脈上読み取れる意味からの影響
    • 事態の実現が容易でない・実現の可能性が低いという文脈からの影響が見られる
    • 例えば、近世前期のせっかくは連用修飾用法で多用される頃には、逆接関係の例が多い
      • 折角目見へをしても[奉公の契約をするまで試験的に働いても]首尾せざれば[契約が成立しないと]、二十四匁九分のそん銀、かなしき世渡りぞかし。(好色―代女)
  • 類似表現からの影響
    • しょせんの否定的意味は、中古和文の「せんかたなし」「すべなし」の影響がある。ここから詮無し・所詮無しが生まれ、しょせん事態も単独で「どうしようもない」の意を持つようになる
      • 我も人もおくれ先立つならひ遁れがたければ、せんなく侍るべし(発心集)
      • 医術効験なくむば、面謁所詮なし(覚一本平家)
      • 所詮、問答は無益ぢや。何であらうともままよ。是非におのれをば、わが夕食にせうずる(エソポ)
    • どうせに関しても、かにかくに、かもかくもなどの「か~かく~系」、ともかくも、ともあれかくもあれなどの「と~かく~系」、いずれにても、どうにもこうにもなどの不定語など、似た表現は上代からある。もともとは「どのような場合であっても」という「どうにせよ」相当で用いられていたが、話し手の意志や意図に関係なく成り立つことを示すために、否定的評価を伴うようになる

構文変化として

  • 単文から複文へ
    • せっかく:せつかく[酒のさかなに、いもを]煮やしたから、あがりやし(近目貫[1773])
    • どうせ:「けふハ店の衆にさそハれて、大師がハらへ行から、どふせかへりハ品川にとまるだろふ(落咄見世びらき[1806])
    • いっそ、さすが、は最初から複文構造で用いられている
    • しょせんも単文・複文で用いられ、多分であっても連続する間での関係性として捉えられる
  • 文中から文頭へ

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  • 副詞以外の用法が生じる
    • 連体修飾用法:いつそのことくハふ(食はふ)といふた/折角の日と覚しからん時、
    • 述語用法:さすがだ/せいぜいだ、せっかくだけど、せっかくだから
  • 全体として、
    • 名詞や動詞の自立的機能語化
    • 評価成分が文頭に位置することは、前置き表現の発達と似た成立経緯を持つか

雑記

  • 空耳アワーにありそうな曲」のネタをやる芸人パニーニが本当に空耳ビデオに出演してたとき、夢の力ってすごいって思った