ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

宮内佐夜香(2013.10)近世後期江戸語における逆接表現旧形式「ド」「ドモ」について

宮内佐夜香(2013.10)「近世後期江戸語における逆接表現旧形式「ド」「ドモ」について」『近代語研究』17

要点

  • 近世~近代にかけて衰退したド・ドモが、衰退期にどのようにガ・ケレド・ケレドモと共存しているか
    • 接続形式など、環境は限定的で、文語的位相の話者や場面に用いられる

ド・ドモの衰退

  • 先行研究で明らかになっていること
    • ガの発達に伴いドモの使用率が低下すること
    • 近世後期洒落本における逆接確定条件はケレドが最も多く、
    • 明治になるとド・ドモの使用がほぼ0になること
    • 近世後期江戸語でもド・ドモの使用率が低いこと

江戸語のド・ドモ

  • 中心的なのはガ・ケレド・ケレドモで、あわせて70%を超える
  • ド・ドモは洒落本でも10%、滑稽本人情本では低くなり、浮雲には例がない
    • ただし、全体の量ではノニと大きな差がなく、何らかの形でド・ドモの使用が保たれていたものと見られる
  • 上接語を見ると、
    • タリ・ナリ・ズ等の文語助動詞
    • 形容詞は成立の早い「ちかけれど」の例を除けばナシ・ヨシのみ
    • 動詞の場合、「待てど暮せど」「と(は)いへど(も)」の使用に偏る
  • 使用される場面・話者を見ると、
    • 式亭三馬の作品では
      • 老人、俳諧師、先生などに偏る
      • 場面では、浄瑠璃風の語りや、知識をひけらかすような尊大な口調の場合にも用いられる
    • 遡って洒落本では、
      • 半可通など、客の男性の台詞に偏る
      • 場面としては、遊女の歌う歌詞など
    • 他の作品でも、芝居がかった口上、七五調、話者の人物像に特徴がある用例
    • 明治の日常会話には用いられない

ナレド・ナレドモ

  • 已然形に活用しにくい新語形に接続できる形式として、不変化形式+ナレド・ナレドモの例あり、ド・ドモの代替表現として用いられたものか
    • こいつ油断のならぬ奴とは思いましたなれども[≒たれども](八笑人)
    • 然様したこともあらうなれど(花暦封じ文)
    • 並行してタレドも用いられており、使い分けの基準は認められない

雑記

  • 横転したトラックを渋谷に持っていったら、逆に起こしてもらえるのでは