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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

福沢将樹(2018.10)事態継続と期間継続:中世抄物を中心に

福沢将樹(2018.10)「事態継続と期間継続:中世抄物を中心に」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房

要点

  • 「継続」を「事態継続」と「期間継続」に分けて分析することで、純粋な「動作継続」が中世後期には見られないことを示す

「動作継続」

  • 抄物には「雨フリテアルガ」のような動作継続の用法があるが、室町末期にはテイル・テアルが動的な動作継続を表す例は極めて少なく、近世にはいくらか例がある
    • 中世後期に見られたものが中世末期に見られなくなり、また一般化するという流れはやや不自然
  • 湯澤(1955)の挙例を見ると、
    • 久ク雨フリテアルガ
    • 二人ノ・タガヤシテ・ヲル・トコロヲ
    • 潔斎シテイル精舎デ病ゾ
    • 修シ行テ。イレドモ。
  • このうち、「フリテアル」は目の前で雨が降っているというより、期間として降り続けている意
  • ここで、動作の継続を事態継続期間継続に分けて考える
    • 〈事態継続〉とは、動的な動作や静的な状態といった具体的な事態の関わる次元の継続的意味である。
    • 〈期間継続〉とは、具体性の次元ではなく、開始・継続・終了といった時間的延長期間の次元の継続的意味である。

用例

  • 蒙求抄の場合、
    • マイナーな用法として(いわゆるパーフェクト)
      • 解説:恥をすすいである、~したのである、の意
      • 前出:以前の章で触れたことに言及するもの
      • 相対テンス:乱を起こしてある時
      • 経歴:易を習ていた、習得済であることを示す
    • 期間継続には、以下の3類
      • 期間中(長い間テイル):目ヲ著テイル間二。慈ハ。チヤツト。ヌクルソ。
      • 既然期間(これまでずっとテイル):猿鶴ヲ友トシテ。アリシカ。今ハ又。名利ノ道へ出タホトニ
      • 将然期間(これから後も依然としてテイル):生テイテモ。曲クガナイソ
        • 特に人物について述べるものが多い:凶奴ヲ。コロイテアル者ノソ。
    • 事態継続のマイナーな用法として、
      • 持続:睨み合っている
      • 結果状態:星が集まってある
      • 単なる状態:きらりとしている
    • 事態継続のうち、重要な動作継続を検討
      • 酔テ。ヘヒツヽヽ卜云フテ。イタヲ見タレバ。大蛇カヘヒツヽヽ卜云テ。イタソ。
      • 動作継続と思しき例は8例あるが、「ゆっくり」解釈ができないので、動作継続の確例とは言い難い
        • 福嶋(2000):「ゆっくり」を付けた場合に具体的な遅さと解釈できるものを動的な動作継続とする
          • 動的:哲郎が枝をゆっくり折っている / 静的:ゆっくり休んでいる
  • 論語抄においても同様、動作継続の確例はない
  • 動作継続は無標形で表した可能性がある
    • 孔子ノ辺ヲ・ウタヽヽウテ・スグル・ナリ

見通し

  • 以上より、以下の見通しが得られる
    • 中世末期までの「てある」「ている」「てをる」は〈動作継続〉とは異なる意味を表すアスペクト形式であった。〈動作継続〉の意味は、無標形或いは他の形式が表した。
    • 近世以降、「ている」「てをる」が〈動作継続〉を表しうるアスペクト形式として発達していった。
  • ただし、以下の点に留保が必要
    • 無標形の検討
    • 連用形イル・ヲル、ヨル・トルなどの検討
    • そもそも抄物は動作継続が出にくい文体ではないか
  • そして、そもそも「動作継続」自体が、言語にとって自明ではなく、期間継続のほうが自然なのではないか
  • 他言語を見てみると、やはり動作継続は派生的
    • 英語の be + Ving については be on Ving 説があり、Vの中にある(期間継続)→Vしている(動作継続)という派生が想定される
    • 現代中国語の在+V(progressive)は期間継続が中心で、V+着(continuous)は、持続が中心。動作継続は消極的なもの

雑記

  • 某先生の載った漫画がバズっていたが、やや美化しすぎだと思った