坂梨隆三(1970.10)「近松世話物における二段活用と一段活用」『国語と国文学』47-10、同(2006)『近世語法研究』武蔵野書院所収
要点
- 近世の一段化の基本文献
- 一段化の語彙的・位相的な傾向
近松世話浄瑠璃の一段化
- 世話浄瑠璃24作品から例を抽出
- 異版本も参照したが、大きな差はなし
- 以下の傾向差が見出せる(まとめ)
- 会話文は地の文より一段活用が現れやすい
- 動詞のほうが助動詞よりはるかに一段活用が現れやすい
- 動詞について、
- 一段化例のうち、上一段の割合は下一段よりも高い
- 終止連体形は已然形より一段活用が現れやすい
- 三音節語は四音節語より一段活用が現れやすい
- 「るる」語尾を有する動詞はその他の動詞より二段活用が現れやすい
- 位相について、
- 庶民は武士に比べて一段活用が出やすい
- 女子は男子に比べて一段活用が出やすい*1
- 身分や教養の低いものは高いものと比べて一段活用が出やすい
- 目下の者・親しい者に対しては一段活用が出やすい
- 喜怒哀楽の激しいときには一段活用が出やすい
諸例
- 話者の性差、対話者の親密さによるもの
- おさん→紙屋治兵衛(夫)「そのかねの出所も跡でかたればしれること
- 治兵衛→吾左衛門(舅)「お目にかくればしるゝこと
- 対話者の差によるもの
- さゐ→娘「親の子をほめるはいやらしけれど此様な娘を大ていの男に添はせるは妬ましい
- 下女→さゐ「はだか身をむつくりとだいてねたいとほむるも有
- 音節数の差によるものか
- 胸がさける身がもへる、エエ口おしい無念なあつい涙血の涙、ねばい涙を打こへ熱鉄の涙がこぼるゝ
雑記
- アデランスの「じょじょ髪」が別の髪型を想起させまくる
*1:「一段・二段の差は男女の差の方が大きい」とは言っているが、男子庶民60%と女子庶民69%で、これが有意かと言われるとどうだろうか。