岡部嘉幸(2011.5)「現代語からみた江戸語・江戸語からみた現代語:ヨウダの対照を中心に」金澤裕之・矢島正浩編『近世語研究のパースペクティブ』笠間書院
要点
- 江戸語のヨウダ・ソウダの現代語との差異を指摘し、江戸語のヨウダが現状描写性を持つ一方で現代語のヨウダは現状解釈性を持つものと考える
ヨウダ
- 現代語のヨウダの用法を以下のように整理
- A1 内実推定:外では雨が降っているようだ。
- A2 原因推定:春休みの間に教習所へ通ったようだ。
- B 様態:(店内を見て)いつもより混んでいるようだ。
- C 比喩:まるで、夢でも見ているようだ。
- 一方、江戸語のヨウダには、
- A1*1はあるがA2はない
- B, Cがあるほか、
- 現代語にないD「話し手の内的感覚」がある
- 北八「ア、なんまいだ〳〵。目がまはるよふだ。」(膝栗毛)
- 真実に貴君の力は、強大ぢやアありませんか。右の手が痺れて、覚えがないやうです。(花暦封じ文)
- これらの用法拡張を、A1, B, Dの共通点、A1,A2の相違点から考えると、
- A1, B, Dは、話し手が認識した現在の状況を描写する点(現状描写性)で共通する
- A1とA2は、状況の背後の事情を解釈する現状解釈性の点では一致するが、A1が現在の状況を別の側面から描写する(ザーという音がする/雨が降っている)一方で、A2は一つの現象の2側面ではない
- Cは類似性に基づいた現状の別事態の描写(現状描写)でも類似性に基づいた現状の解釈でもある
- 以下のように諸用法が位置づけられる
ソウダとヨウダ
- 江戸語のソウダは、現代語の伝聞の他、A1内実推定、A2原因推定の用法を持つ
- 江戸語のソウダの特徴は、「当該事態が経験的に把握されていないということ」を表すもの
- 現代語では当該事態が事実として確認されていない「推定」が失われ、単なる伝聞表示に移行
- 江戸語におけるヨウダとソウダの差は、ヨウダが現状描写性を中心とする一方で、ソウダは当該事態が経験的に把握されていない(事態の未確認性)を表すことを機能とすることにある*2
- ソウダがA1A2の両方を表せるのは、未確認性を表すことに重点があるから
- ソウダが様態や内的感覚を表せないのは、そうした出来事を経験的に把握されないということがそもそも起こらないから
- 展望として、現代語のヨウダの研究にも示唆することを述べる
- ヨウダとラシイの差異について、これらを共通のカテゴリに含めるか、ヨウダ(様態)、ラシイ(推定)と見るか、という立場の差は、現状解釈的側面を重視するか、現状描写的側面を重視するかの差として捉えられる
雑記
- ビジネス書の要約を配信している有料サイトの存在を知った、ものがものだと商売になるんだな…