田中牧郎・山元啓史(2014.1)『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述
田中牧郎・山元啓史(2014.1)「『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述」『日本語の研究』10-1
要点
- 今昔と宇治拾遺の同文説話のパラレルコーパスを作ることで、「硬い」語彙と「軟らかい」語彙が抽出・特定できる
問題と手法
- 内省のきかない古典語について、語の文体的位置付けは、出自による分類の域にとどまらざるを得ない
- 「文体に応じて表現を変換する」場として、説話集における同文説話が考えられる
- 今昔・宇治拾遺は共通資料「宇治大納言物語」からの継承と改変によるものであるので、この分析が可能
- 今昔・宇治拾遺それぞれの同文説話本文に対して形態素解析と修正を行い、文同士・語同士の対応付けを行う
- 対応するかしないか、対応する場合に同語か異語かという対応付けを行う
- 今昔:今/昔/天竺/に/僧/迦羅/と/云ふ/人/有/けり/。 五/百/人 の/商人/を/相/具し/て/一/船/に/乗り/て/
- 宇治:昔/天竺/に/僧/伽多/と/いふ/人/あり/。 五/百/人/の/商人/を/舟/に/乗せ/て
分析
- 継承と改変のあり方には次のようなパターンが考えられる
- 表現は同一だが語が異なる組み合わせ(a-c)に注目し、特にサンプルとして6組から抽出された異語対応率の高い語に対して、同文説話83話で再度、対応の分析を行う
- まず、今昔→宇治の異語対応が、「硬い」文体的価値を持つ語彙として認められる
- 表の最上位から中位にかけて、意味・用法によって同語対応か異語対応かが決まる傾向が強くなる
- 中位から下位になるとその傾向は弱まり、対応語も特定のものに定まらなくなる
- 例えば、
- 「美麗」は美しげ・めでたし・よし・あはれ、などに対応
- 「相ひ」は相具して→率るなど。同語対応する場合もあるが、特に「相互性」の強い「相見る」や、宇治拾遺における特異な物言いの例
- 「難し」は基本的に異語対応だが、堪へ難しのみ同語対応
- 「以て」は異語対応のあり方が固定的で、道具・身体を表す場合に「して」「にて」に、行為の媒介を表す場合に「して」「に」に対応する、など
- 逆の宇治→今昔は「軟らかい」文体的価値を持つ語彙として認められ、これもやはり用法によって対応のあり方に差異がある
- 文体的対立が特定である語が、硬い場合には中位にあったのに対し、軟らかい場合には上位に固まる(理由はよく分からない)*1
雑記
*1:(順位の)サンプル数が少ないし単なる偶然である可能性は否めないが、硬い側と軟らかい側で品詞に偏りがあることは気になる。一般的な「難し」と構成要素としての「~難し」などは、分けて考えた(集計した)方がよいのでは。