佐々木淳志(2010.3)「自動詞・他動詞と二段活用の一段化」『愛知教育大学大学院国語研究』18
要点
- 近世の一段化が、特に自他対応のある語において、形態上の同定を容易にするために進行していたことを示す
動詞の自他と一段化
- 自動詞他動詞の両方が二段活用を維持した場合、語の識別に支障が出るために、一段化によって形態上の判断を容易にしたのではないか、という仮説
- こよひのびると明日町へことはる
- 千年をのぶる門松の。
- 動詞の自他対応のあり方は次の5種
- 活用の種類の違い:立つ(四・下二)
- 自他両用:負く、明く
- 語尾の違い:よる・よす、かる・かす
- 語幹増加と語尾の付加:おつ・おとす、まぐ・まがる
- 自他対応なし:訴ふ・押さゆ この分類を基準に調査すると、
- 自他対応を音で行う動詞群は、自他対応を語尾ル・スで行う動詞群よりも一段化率が高く、自動詞の一段化が他動詞の一段化よりも高い
- 四段→下二段の派生形は一段化率が特に高くない。これは、一段化によって語の同定のしやすさが変わらないため
- 上二段・下二段で対応する動詞(のぶ・いく)は一段化率が高い
- 自他同型の動詞は形態の示差性が担保されるため、一段化率が高い
- まける気なら/まければそれでとりやりなし
- 語尾ル・スの違いか、もしくは語尾付加による語群は一段化が促進されていない
- にせる、きせるは音節の短さによる一段化か
- 自他対応がないものは、平均的な一段化率
- 活用の違い、もしくは自他両用動詞においては、形態の示差性を保つために一段化が進行したものと考えられる
- 四段・下二段(立つ・立つる)の場合は、もともと異形態部分を持つため、一段化の欲求はそこまで多くなかった