外山映次(1969)「条件句を作る「ウニハ」をめぐって」『佐伯博士古稀記念国語学論集』表現社
要点
- 特に洞門抄物に見られる「ウニハ」について
- ムニハ > ンニハ を経た室町口語のウニハを洞門抄物が取り入れ、固定化したものと見る
問題
- 無門関抄四十八則の~ニ見得せハト云ハ、~見得シタラウニハ、~ト也
- 未バによる訓読文を、抄文ではタラウニハとしている
- このタラウニハは洞門系抄物に特徴的で、例えば関西語脈の無門関抄では同一箇所を「見得シタラハ」とする。すなわち、未然バの領域について、関西系では(タラ)バ、東国系では(タラ)ウニハとする対立がある
洞門抄物のウニハ
- 接続形式は、タラウニハ、ナラウニハが多く、他、ズ・テアリ・テゴザルや、本動詞・形容詞の場合はアリ・ナシ・動詞(問ヲウニハ)など
- 用法は、松下の完了性仮定・非完了性仮定の分類に基づくと、いずれも見出せる
- 完了性仮定:今離別シタ郎ニハ再会スル事ハ稀レデア郎ズ
- 非完了性仮定:我レナ郎ニハ一手残コシテ家門ヲタモトウ物ノヲダ程ニ
- 問題となる例として、確定条件句を作る場合がある。これは例外ではなく、ウニハの一つの用法と捉える
- 他ノ拶ガ入タ郎ニハ、活肉ガ死肉トナリ孟骨ガ死骨トナッタ事ダ
関西系のウニハ
- 概ねタラバが対応するが、皆無というわけではない
- キリシタン資料では、
- ロドリゲス大文典ではいずれも仮定法に繋がるものとして記述される。特に反実仮想に用いられるものとしての記述がある
- 天草版平家やエソポには同様の例がなく、類似表現としては、
- この御所へ御幸なされたには / ござるにおいては
- こんてむつすむん地にはンニハがいくらか見られる
- 以上、ウニハは室町末には口頭語から消滅していたが、書き言葉としては用いられていた
- 抄物にはウニハの例が50例ほど見られるが、タラウニハは少なく、サラウニハが多い。既に慣用表現へと固定化していたものか
- 東国語のものと関連付けると、室町期の口語で用いられたウニハが洞門抄物の文体に取り入れられ、タラウニハ・ナラウニハとして定着し、江戸期まで残ったものと考えられる
ムニハなどとの関係
- 仮定条件バの起源を sak-am-fa > sakamfa > sakamba > sakamba > sakaba のように考え(大野晋説)、ムハをム時ニハとして理解する(木下正俊説)とき、ムハ・ムニハ・ム時ニハ・ムニなどが同様の性格を持つものと考えられる
- 今昔のムニハ・ムニの分布を見ると、特に本朝世俗部にムニハが多い
- 用法としては、一般の仮定条件に近いが、タラウニハに連続する用法も見られる
- ほか、延慶本、大平記、申楽談儀、正法眼蔵等にも見られ、これが室町のウニハに繋がる
雑記
- 佐賀に旅行に行ったとき、その場でウニを割ってもらって食べたことをふと思い出し、写真を探す。また行きたいな~