ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

田中章夫(1965)近代語成立過程に見られるいわゆる分析的傾向について

田中章夫(1965)「近代語成立過程に見られるいわゆる分析的傾向について」『近代語研究』1

要点

  • 広義近代語への変化の過程として、整理・分散・単純による「分析的傾向」の存することを指摘する

分析的傾向

  • 古代語の推量に関係する助動詞を見ると、
    • 花咲かむ→花が咲くだろう
    • 花咲きけむ→花が咲いただろう
    • 花咲くらむ→花が咲いているだろう
    • 花咲かじ→花が咲かないだろう
    • 花咲かまし→花が咲くだろうに
    • 花咲くらし→(きっと)花が咲くだろう
  • 一つの形式「けむ」で過去推量→二つの形式「た+だろう」で過去+推量 というように、情報量を分散させる方向へ移行している
  • 以下の3つの現象が、互いに関係しあって「分析的傾向」を成立させている

整理

  • 「ある表現」を担う「形式」の種類が減る
    • 推量の助動詞がウ・ヨウ・マイの3種→ダロウへ
    • 打消にナイ・ヌの対立と、打消過去にナンダがあったが、ほぼナイに一本化(ヌはマセンのみ)
    • 仮定条件を示すのに未然形+バ、仮定系+バがあったが、仮定形+バに一本化

単純

  • 個々の「形式」の意味や機能が限られたものになる
    • ウ・ヨウで文を終える場合、意志(宿題は明日やろう)、推量(明日雨が降ろう)の2種類があるが、推量は衰退
    • レル・ラレルの可能表現が、現代では可能動詞を中心にデキルなどの可能オンリーの表現形式へと移行

分散

  • 複雑な表現のために、その表現内容を複数の形式に分担させる
  • 上の推量の助動詞の事例の他に、
    • マイ→ナイダロウ・ナイラシイ・ナイツモリダ
    • ナンダ→ナカッタ
    • ナ→ナイデクレ・するノハヨセ

雑記

  • ボッロボロの汚い和本(浄瑠璃丸本)を講義に持っていったら、むしろ逆にありがたがられて、なるほど!ってなった