浅川哲也(2018.3)「江戸時代末期人情本にみられる可能表現について:後期江戸語における可能動詞の使用実態」『近代語研究』20
要点
- タイトルまんま、特に上層町人の可能動詞の使用実態について
方法
- 江戸末期人情本を使用。松亭金水作の閑情末摘花、鶯塚千代廼初声(1,2)、毬唄三人娘(1-3)、山々亭有人作の春色恋廼染分解、毬唄三人娘(4,5)、春色江戸紫、花暦封じ文、春色玉襷、鶯塚千代廼初声(3,4)いずれも版本を使用。
- 助動詞「れる・られる」、可能動詞、「できる」、「~がたい、あへず、かねる、にくい、づらい、得る」などの補助動詞を抽出
用例分析
れる・られる
- れる・られるの可能用法の使用は、金水から有人にかけて漸減する
- 「四段活用+れる」が最も多く*1、いわゆる「ら抜き」の例はない
- 上接動詞の上位2位は言う・居る
できる
- 可能の意味と発生(出で来)の意味の例数は拮抗しているが、金水→有人にかけて可能がやや優勢となる
可能動詞
- 恋廼染分解での可能動詞の使用数が目立ち、有人のほうが可能動詞を多用する傾向がある*2
- 可能動詞そのものは「読める」が早いが、調査資料中 には多くない(読めるの使用者は桐生出身者)
- 使用者を整理すると、(当たり前だが)上層町人や芸妓がおり、武士の使用例もある
補助動詞
- 調査資料注ではまれ
まとめ
- 全体として、助動詞→できる→可能動詞の順で、可能動詞は可能表現全体から見て優勢であるとは言い難い*3
- 金水→有人にかけての漸増傾向があるが、やはり助動詞の方が優勢
- 打消に偏り、不可能を表すものが多い
- ただし、可能動詞においてはややその比率は下がる
- 以上より、可能動詞は江戸時代末期の上層町人における可能表現の主流ではない
雑記
- 数え方とか比べ方とかそういう「用例の分析」以前の問題って学生に教えるの大変だよな~と思う(大人になってもできていない人がたくさんいる)。『原因を推論する』の言語学版みたいなやつが欲しい。