間淵洋子(2000.6)「格助詞「で」の意味拡張に関する一考察」『国語学』51-1
要点
- 格助詞「で」の意味拡張について、
- 特に動作主格(自分でやる)、原因格(風邪で休む)が発達したことを示し、
- 付加的な格を示す「で」が、中心的用法要素へと参入したことを示す
問題
- 格助詞「で」の多義性について、基幹的意味からの拡張関係によって捉えることを目的とする
- 位置:僕は殆んどの期間をヨーロッパで暮らしていた。
- 時間:あと十二、三分で真夜中だった。
- 基準:八十坪で六億円を超す。
- 手段:福島から普通列車で北上した。
- 原因:お父さんは五年前に脳腫瘍で死んだの。
- 様態:その後をすぐ、さっきのダンプ嬢が、黒牛のような勢いで追った。
- 動作主:おい、自分の荷物は自分で持てよな。
- 「で」は「にて」の転で、「にて」と交替するのは室町頃
- 室町以降のデの用法は、以下の6種に分類される
- 各時代の用法を概観すると、
- 中世では場所格が半数近く、手段・様態にまとまった数、原因・限定・動作主は少ない
- 近世では場所格の割合が減少し、他(特に原因)がその分増加
- 近代は近世とさほど変わらない
- 以降、発達事例を詳細に見る
動作主格の発達
- 場所・位置から動作主へ
- 様態から動作主へ
- 「何人で行ったか」を表す、格助詞「して」が担った用法
- 大勢でおっかけて取押え(夢酔独言)
- この様態性が薄くなることで、動作主格へ近づく
- 此おれかひつ担た鉄抱は、自分てはじくべいとは思はぬ。(雑兵物語)
- 「何人で行ったか」を表す、格助詞「して」が担った用法
- これらはいずれも、本来の性質である場所性や様態性を背景化することによって新たな用法を獲得するもの
原因格の発達
- 「手段格から原因格へ」という変化が考えられる
- これらは成立に直接的に働きかける点で共通するが、手段の場合は動作主にコントロールされるのに対し、原因の場合は動作主のコントロールが不可能
- 手段が基幹的で、そのバリエーションに原因がある
- その他、限定用法も発達するが、これは場所格の抽象化によるものか
デ格の発達
- デ格が発達させてきた動作主格・原因格は、いずれも動詞と深く結びつく関係にあり、動詞の表す動作・行為・出来事の成立に必須な格である
- 「場所」や「道具」と比べて、出来事の成立に必須
- 元々は「で」は静的で事態に関与しないものであったが、「で」が多用される中で、動的・事態に関与する事物にも用いられることが許容された
雑記
- ファミマのお母さん食堂は肉じゃがとかハンバーグとかだけじゃなくて生ハムもあって、お母さん像が掴めない