ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山田昌裕(2014.2)「デサエ」二種の由来

山田昌裕(2014.2)「「デサエ」二種の由来」『恵泉女学園大学紀要』26

要点

  • 山田(2012)の続き

hjl.hatenablog.com

問題

  • デサエには、連接「デ+サエ」と、融合化「デサエ」がある(山田2012)
    • 連接デサエ:有名観光地{でさえ/で}、多言語での看板やパンフレットの設置、インフォメーションセンターの対応ができているのは一部だ
      • これはニテサエに由来するものか
    • 融合化デサエ:ひっきりなしに通る電車の音{でさえ/*で}、ここでは商店街の活気をさらに強調するBGMのように聞こえます
      • 動作主のデが下接することで初めて融合が可能になったものか
  • 連接デサエがニテサエを引き継ぎ、融合化デサエはニテサエと出自を異にすることを示す

用例概観

  • 鎌倉室町期のニテサエは例が僅少
    • 此世にてさへとひたまはねば、(松陰中納言物語)
  • 鎌倉室町期のニテが動作主に下接する例も少なく、しかも様態としての解釈が可能
    • 春の風は空に満ちて、春の風は空に満ちて、庭前の樹を剪るとも、神風にて吹き返さば、妄想の雲も晴れぬべし(謡曲・嵐山)
    • 尋常ノ人ニテ是程ノ惡行ヲシタランニ、暫クモ安穩ナル事ヤ候ベキ(大平記)*1
  • デについてもやはり、動作主下接の例は室町期までには見られない
    • あれほど卑しう拙い身、何としてこの返答には及ばうぞ(エソポ)*2
  • よって、同じ形式である「デサエ」は、一つは「ニテサエ」に由来、一つは動作主の「デ+サエ」であると認められる

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雑記

*1:指摘されている通り、これは様態だろう

*2:「主語が他に表示されていない例となると、「拙い身」を動作主として解釈可能」とあるが、これもやはり「あれほど卑しう拙い」がなければデは使えない。間淵2000では場所→動作主/様態→動作主の二通りの経路が示されており、その後者に該当するようにも思うが、そこで言われていたのはシテ相当(人数)からの拡張だったので、やや話がずれるか?