ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

川島拓馬(2018.1)近世・近代における「つもりだ」の用法変遷

川島拓馬(2018.1)「近世・近代における「つもりだ」の用法変遷」『筑波日本語研究』22

要点

  • つもりだの用法展開について
    • 意志専用形式でなくなっていくことの指摘と、
    • 新たな否定形式「つもりはない」の成立
  • 川島(2018)とセット

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問題

  • つもりだの三用法
    • 意志:私は夏休みに旅行に行くつもりです。
    • 思い込み:確かに火を消したつもりだ。
    • 仮想小さい子どもになったつもりで遊ぼう。
    • 概略、意志動詞が前接すれば意志、無意志動詞であれば思い込みか仮想
  • これまで分かっていること
    • 動詞「積もる」からの派生で、天明期の成立
    • 明治以降に意志の用法に固定化するという見解
      • ただし、「つもり」そのものには意志の意味はないのであって、その点、現在との繋がりが捉えられているとは言えない
  • 規定
    • 当該事態が発話時に未実現である場合に「意志」、既実現の場合に「思い込み」
    • 自己制御性(仁田)の性質によって、達成の意志・過程の意志を区別

用例概観

  • 近世後期江戸語で既に達成の意志・過程の意志・思い込み・仮想の4用法が確認できる
    • ル形はほぼ意志で無意志動詞の場合は思い込みの例もある
      • 浮みあがるつもりでよこしもしたろうけれど(春色辰巳園)
    • タ形の場合はほぼ思い込みか仮想
    • 意志と信念(思い込み+仮想)はほぼ同時期から使用されていることが分かる*1
  • 近世後期上方語にも例が見られ、様相はほぼ江戸語と同じ
  • 明治前期は同様だが、後期に至ると前接語のバリエーションが増加する
    • テイル形の増加(大半は思い込み)
  • 事態の成立のあり方から見たとき、諸用法は以下のようにまとめられる

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  • 用法の推移は以下の通り
    • 思い込みが増加
    • 達成の意志が減少

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  • すなわち、自己制御性の高い事態について述べるものが減少することで、「つもりだ」がむしろ意志専用形式ではなくなったことを示す

つもりはない

  • つもりだの否定形式「しないつもりだ」「するつもりはない」「するつもりではない」のうち、「つもりはない」のみ出現が遅れる
    • 「しないつもりだ」「つもりではない」は「Nだ」の単純否定で、「つもりはない」は特殊
  • 「つもり」が意志の意を持つ名詞として再解釈されたことで新たに析出されたもの
  • 機能語化の文脈では「助動詞「つもりだ」の成立」として引き合いに出されがちだが、「つもりはない」はモダリティ形式の成立後の変化であり、機能語化ではない

雑記

  • 「やった!嵐から年賀状来てる!」って毎年言ってる

*1:元来の計算の意(=見積もり)がコピュラに接続した形式であったというだけで、用法未分化であるものと見てもよいのでは?