ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

大木一夫(2018.10)中世後期日本語動詞形態小見

大木一夫(2018.10)「中世後期日本語動詞形態小見」青木博史・小柳智ー・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房

要点

  • 虎明本の動詞の形態論的分析と、古代語との接続

大木(2010)

  • 分析手順は大木(2010)と同様
  • すなわち、
    • 動詞と非自立形式を分け、
    • 非自立形式を附属語(独立的・自由形式)と附属形式(従属的)に分ける
    • 附属形式を派生接辞と屈折接辞に分ける

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分析

動詞の一部ではない非自立形式

  • 屈折する倚辞(附属語)
    • =nar-i, =goto-si, =zu/=nu/=ne, -gena-Ø, =ōzu-ru など
    • 接続多様性、挿入可能性、転換可能性のいずれかを満たすので、語として認められる

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  • 屈折を持たない倚辞(附属語)
    • =ō/jō, =wa, =te, =jareなど
    • 終助詞、接続助詞も含む

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動詞の一部である非自立形式

  • 派生接辞
    • -Sasuru(-as-uru, esas-uru, -isas-uru, -sas-uru), -Raruru, -Sasime, -Sasimasu, -Jaru, -Masu, -Simuru, -Tagaru, -Turu, -Nuru, -eri, -Tari, -Tai, -Nanda
    • 動詞にしかつかない非自立形式(多様性がない)で、挿入可能性がない、順序も入れ替え可能でない
    • パラダイム中の1つが必ず必要になることはなく、語幹に近いので派生接辞として考えてよい
    • これらの形式は付属する接辞を従えており、派生接辞+派生動詞形成の形式と見ることになる
      • tat-esas(派生接辞)-uru(屈折接辞)
    • ケム・マホシ・サル(サレのみ)は固定化している
  • 屈折接辞(動詞の活用語尾)
    • 終止系連体形の合一はあったものの、旧終止形もト書きなどには見られるので組み込んでおく
    • 古代語に見られなかった活用語尾として, -eru(一段化), -ei(命令)
    • -ai(命令)、-Ide(打消接続)なども、動詞の語幹から離れたところに位置する附属形式なので、ここに含める
    • タは屈折接辞として認める
      • 音便語幹につきやすいところを、タリと一線を画す点としてみなす
  • 以上まとめ

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中世後期の位置づけ

  • 古代語の体系(大木2010)との接続を考える
  • ①活用の種類は古代語的で、ほぼ変わっていない
  • ②活用形(活用語尾)の種類は拡大している
    • -eru, -ei, -ai などの、新しい活用語尾
    • -Zi, -Bajaは接続多様性を失うことで、屈折接辞から接辞に成り下がる(古代語の残滓としての活用語尾
      • 形式の衰退という点では、旧終止形もそれに該当
    • タのように、派生接辞であったものが、屈折接辞の仲間になるという変化もある(古代語の変容による活用語尾
    • 機能変容した活用語尾もある
      • 終止連体、打消(<未実現)のほか、条件もこの後仮定化していく
  • ③四段動詞複数語幹の確立
    • 音便語幹の成立は近代語的な特徴といってよい
  • ④派生動詞(特に敬語派生動詞)の時代
    • -Sasimo, -Saimasu, -Turu, -Nuru, -Tagaru, -Tai, -Jaru, -Masu など

雑記

  • 年末ごろからペンシルパズル熱が加熱してしまい、すべての時間を吸い取られている