吉田永弘(2001.3)「平家物語のホドニ:語法の新旧」『国語研究』64
要点
- 吉田(2000)のホドニの用法を基準にした、平家諸本の位置付けの検討
前提
- 吉田(2000)によるホドニの三段階
平家諸本におけるホドニ
- 平家諸本とホドニの段階についての見通しを示すと、
- 覚一本:1371識語、成立時は既に因果性の段階
- 延慶本:1309-10書写の1417-20書写、延慶書写以前の本文は先後性、延慶書写本は因果性の極初期、応永書写本は因果性がまとまって見られる時期に位置する
- 屋代本:現存本文は応永書写か。書写時は因果性の段階にあるが、それ以前の本文はどの段階か分からない
- 以上の見通しを踏まえて諸本のホドニを分類すると、
- 覚一本には重時性のみ
- 延慶本には重時性・先後性の例があるが因果性の例はなく、
- 屋代本には因果性の例も見られる
- 覚一本、延慶本、屋代本の順に古い段階に留まる
- 覚一本は規範意識のため
- 延慶本と屋代本は新しい語法が混入しており、
- 延慶本の先後性の例は応永書写時ではなく延慶書写時かそれ以前のもの
- 屋代本の例は、書写時の混入か、もしくは書写時に混入したわけでなければ、現存本文の成立がそれほど古くないことを示すことになる
- 例を挙げると
- 覚一本:「~」ときこえしほどに[=噂が広まるうちに]、軍兵内裏に参じて、四方の陣頭を警固す。
- 延慶本:重盛不思議ノ事ヲ聞出タリツル程ニ[=た後に]、俄ニカクハ催シタリツルナリ
- 屋代本:昼ハ人目ノ繁フ候程ニ、夜ニ紛レテ参テ候
- その他諸本、源平盛衰記、長門本、南都本、鎌倉本、竹柏園本、斯道本、平松家本は全てに因果性のホドニの例が見られる
- まとめ
- 重時性の段階:覚一本
- 先後性の段階:延慶本
- 因果性の段階:屋代本、他諸本
- 先後性・因果性の段階の本文は、異本成立時か書写時の語法が混入していると考えられる
- 覚一本が新しい語法を取り入れていないのは、他諸本に比して平曲の台本的性格が強いためか
- 語りの語法としては、記憶の負担の少ない単一用法が好ましい