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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

柴田敏(1998.2)提案への同意を表すヨカナリについて

柴田敏(1998.2)「提案への同意を表すヨカナリについて」『紀要(静岡英和女学院短期大学)』30

要点

  • 終止ナリが持つ提案への同意(イイデショウ相当)の用法についての記述

ヨカナリ

  • 終止ナリの用法の一つに「提案への同意」がある
  • あこき、部屋の戸開きたりと見て、例の三郎君呼びて、「いとうれしくの給ひしかばなん。これ北の方の見給はざらむ間に奉り給へ。ゆめゆめけしき見え奉り給ふな」といへば、「よかなり」とて取りつ。(落窪)
    • 消息を母北の方の目を盗んで渡すように打診したのに対して「よかなり」
  • 格成分を持たず、言い切りの述語となり、応答詞的に用いられる
  • 他の「提案への同意」を表す形式として、
    • ようはべなり(よく侍るなり)、よく侍りなん、よき事(なり)、よき事に侍るなり、さかし、易き事
    • ヨカナリは頻度が高い
  • ヨカメリ、ヨシともに提案への同意を示す用法を持たないので、終止ナリを含むことについては何らかの必然性がある
  • ここで、現代語のイイデショウについて考える
    • 現代語のイイデショウは、同意者が「提案内容をイイと判定する」という命題を、話し手の想像内で真であると認識し、結果的に命題の真偽が不確実となる表現
    • 「良いと判断することの判断を保留する」もので、
    • それによって、提案者の判断に従う意志があることを示すもの
    • ヨカナリにも譲歩(いいでしょう、仕方ありません)の例がある
  • ヨカナリの同意も同様の話し手の判断の保留であると考えたとき、
    • 「聴覚的証拠という不確実な根拠に基づく」終止ナリが、
    • 「命題の真偽が不確実であること」を示し、
    • 「話し手の判断が保留されていること」も示すことができる、と考える

雑記