三宅知宏(2015.3)「日本語の「補助動詞」について」『鶴見日本文学』19
要点
前提
- V1テV2の後項を指して「補助動詞」とする
- この補助動詞はほぼ以下の10語に限られる
- ている、ある、いく、やる(あげる)、くれる(くださる)、もらう(いただく)、おく、しまう、みる
- これらは完全に一語化しているわけではなく、てVは複雑述語ではあるものの、複合語ではないことになる
- この点、いわゆる複合動詞と対比される
補助動詞と文法化
- 機能語化しているかどうかをいくつかの性質から検証する
- 音韻的には、
- テイル・テヤル・テオクなどが平板化するが、
- V1が平板型の場合は元のアクセントを保持する(開けてある・くる・くださる・みる)
- この点においては、テ形動詞と一体化しているとは言いにくい
- 形態・統語的特徴について、
- 助詞のみ挿入可能で(食べては/も/さえいる)、自立性を保つ
- ただし、副詞句などの要素は挿入不可能で、(*食べてちゃんといる)完全な自立性を持つとも言えない
- テ自体の性質として、子音語幹動詞の~タがテ形と同一形態を取る(書いた・いて/死んだ・んで/行った・って)ことは、テ形・タ形を「同種のものとしない合理的な理由がない」ことを示す
- すなわち、ータが屈折辞ならーテも屈折辞、というように。
- 一方、複文ではないことをもって、一語的であるとみなすこともできる
- 太郎が自分の部屋{から/を}出て、花子の部屋に行った
- 太郎が自分の部屋{から/*を}花子の部屋に出て行った
- 以上より、補助動詞は文法化の過程にあると考えられる
- 意味的観点から、その抽象化の段階性・連続性が観察される
- A 彼は待ち合わせの場所に歩いてきた
- B 彼はコンビニで雑誌を買ってきた
- C 彼は近ごろ記憶力が弱くなってきた
- 着点の項の生起がAにはあるが、Cにはない
- Bの着点の項は「買う」により認可されたものだが、移動の意味は多少残っている
- 現代語共時態の研究においても、文法化の観点は必要((三宅2005)https://doi.org/10.20666/nihongonokenkyu.1.3_61)
補助動詞と構文
- 日本語は文型・構文に意味を持たせることが英語に比して少ない
- 日本語においては文型よりも、特定の形態が「構文的意味」を担うことが多い
- 特に生産的な形態が補助動詞で、下例のように、英語では構文が担う意味を、日本語では補助動詞が担う
- 懸垂構文に近い発見の構文に「てみる」の生起が特徴的なのもこの一例(→三宅2017)
- 以上、構文的意味を形態として担う存在として補助動詞を捉えるという視点が重要
雑記
- 部屋の片付けをして、ゴミ袋一袋分のゴミを出した。とにかく紙が多い。