森勇太(2013.7)近世上方における連用形命令の成立:敬語から第三の命令形へ
森勇太(2013.7)「近世上方における連用形命令の成立:敬語から第三の命令形へ」『日本語の研究』9-3
要点
- いわゆる連用形命令法の成立に、敬語助動詞「や」(<やれ)の異分析を想定する
従来説の問題
- なされ省略説は、村上(2003)で提示されたものに加え、地域的差異を説明できない
- 一段化動詞命令形説も採れない
- 村上(2003)説(一段動詞の命令形イ形からの影響説)も以下の理由により採れない
- 現代関西方言において、連用形命令と命令形命令がすべての活用で併存し、アクセント上の区別は存在するのに対し、命令形命令のヨ→イは命令形命令の形態変化である。命令形の影響説を採ると、連用形命令と命令形命令が異なる形式として区別される理由が分からない
- また、命令形の形態変化によるならば、なぜ連用形命令の方が待遇価値が高いのかも説明できない
連用形命令の成立
- 敬語助動詞から終助詞への再分析説を採る
- 「動詞連用形+ヤ(「やる」の命令形)」が「連用形命令+終助詞や」として再分析されたと考えるもの
- 村上説の問題は解決可能
- 1点目、すべての活用に併存するのは、すべての活用の動詞に接続した「や」を資源とするから
- 2点目、連用形命令は起源を敬語とするので、命令形命令より待遇価値が高くなる
- ただし、動詞+敬語ヤは通常拗音化したと考えられ、その場合はヤを取り出しにくいことが問題
- 御こたつへ火をいりや[イリャ](月花余情)
- 語幹単音節・サ変動詞では拗音化しない(居や[イヤ])ために再分析が可能だったと考える
- 実例観察
- Ⅰ期には敬語「や」はなく、「やれ」のみ
- Ⅱ期には「やれ」より「や」が優勢、敬語「や」の待遇価値は低い。「しらしやや」の例から、敬語「や」と終助詞「や」は区別されていたと考えられる
- Ⅲ期、敬語「や」+終助詞「や」の例はなく、この時期に区別がなくなったか
- 資料上は五段動詞の例が早い(四段・サ変・カ変において早かったとする村上説)が、これは動詞の使用頻度によるもので、一段動詞が早くから見られた蓋然性は否定されない
体系の中での連用形命令
- 命令形命令・テ形命令形と命令形相当の形式(第三の命令形)が三項対立する方言には一定の広まりがある
- 第三の命令形は主に依頼以外の行為指示で広く用いられる
- 連用形命令の成立は、ナ形命令(<なされ)のような「敬語から第三の命令形へ」という変化と並行的なものと捉えられる
- オキンサイ(<ナサル)、オキナイ(<ナル)、オキラレ(<(ラ)レル)
- 連用形命令の直接的形成要因は、命令形命令の待遇的価値の低下に求められる
- 命令形命令の待遇的価値の低下は、てくれる・てくださるの発達が原因
- 命令形命令を避けるという言語的配慮を行いながらも強制力の強い指示を行うという発話意図を満たすため、敬語をもとに形成されたと考える
雑記
- つくピー