ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

榎原実香(2018.9)文の階層構造からみたモの周辺的用法の分類

榎原実香(2018.9)「文の階層構造からみたモの周辺的用法の分類」『日本語文法』18-2

要点

周辺的なモ

  • 基本的なモ
    • 太郎は大学生です。わたしも大学生です。
    • 大学生={わたし、太郎、花子}
  • 累加性の見られない、周辺的なモ
    • 花子も大学生だねえ。
    • 大学生={花子、??}

中尾(2008)((中尾有岐(2008)「並列事態が想定しにくいモについて」『日本語文法』8-1))の検討

  • 中尾(2008)による、前提集合を分類の基準とするモの分類
    • 典型例表示のモ:全体集合から典型例を提示
      • 南も南、赤道直下だ/南={赤道直下、九州、沖縄、台湾、…}
    • 潜在的意識活性化のモ:時間推移などの一般則を前提とする
      • 父も今年で定年退職だ/一般則={父が定年退職する、娘が卒業する、…}
    • 解釈のモ:別の解釈があることを匂わす
      • 君もしつこいな。/何度も苦情を言う人に対する解釈{君はしつこい、君は必死だ、君は粘り強い、…
    • 中尾はモに情意性を認めるが、本稿ではその立場は取らない
  • 潜在的意識活性化のモとも解釈のモとも取れる例がある
    • (太郎が酒を飲む)太郎も大人になったな。
      • 一般則={太郎が大人になった、花子が成人した}/太郎の飲酒への解釈={太郎が大人になった、太郎は酒が好きだ}
  • 一方で、時に関する場合は、解釈のモとは取れないので、次の分類を提案

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モの階層

  • ア~ウの階層は異なる
  • アはA類:[宴もたけなわ]会場に、
  • イはB類
    • [春も終わりつつ]暖かくなるだろう。(A)

    • でも[春も過ぎたら]履けなくなるんすかね。(B)
  • ウはC類
    • 時に関わらない潜在的意識活性化のモ
      • わたしたちは[息子も成長しつつ]幸せに暮らしています。(A)

      • [君も大人になれ]、親が喜ぶと思うよ。(B)

      • [息子も成人した]、親としての任務はとりあえず終わりよ。(C)
    • 解釈のモ
      • *[その財布も古くなりながら]端が破れていっていますね。(A)
      • [君もうるさい]、迷惑がかかるよ。(B)

      • やっぱり、[私たちも日本人だから]、お茶を飲むと安心するっていうか…。(C)

とりたての対象

  • 累加のモはBに属し、モの付加対象を越えて要素をとりたてることがある
    • 通常の場合:花子がダンスを踊り、太郎もダンスを踊った。/ダンスを踊った={太郎、花子、…}
    • 焦点の拡張:花子がダンスを踊り、太郎ピアノを弾いた。/行われたこと={太郎がピアノ、花子がダンス、…}
  • アのモの場合、モが付加する下位語をとりたて、焦点は事柄的段階を越えない
    • 東京も銀座で/東京={銀座、新橋、渋谷、…}
    • 宴も秋もたけなわ

  • イのモの場合、「夏も終わる」は動詞句まで焦点が拡張しているが、あくまでも任意的
  • ウのモの場合、前提となる命題を越えた範囲をとりたて、焦点の拡張はC段階まで義務的に生じる
  • なお、「5時間も歩き続けたらお腹空くだろう」のような「当たり前のモ」はウに分類される

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雑記

  • なんとなくつけていた国会中継、「キャッシュレスを目指すにあたって、クレジットカードの破産で家までなくす可能性がある、キャッシュレスでホームレスになりかねない」とか「地域通貨では、QRコードと呼ばれる暗号を用いて…」とか言ってて、マジか…ってなった