ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

浅川哲也(2014.6)江戸時代末期人情本の活字化資料にみられる諸問題:「あるのです」は「あるです」

浅川哲也(2014.6)「江戸時代末期人情本の活字化資料にみられる諸問題:「あるのです」は「あるです」」『日本語研究(首都大学東京)』34

問題

  • 人情本の活字化資料には人情本刊行会版があるが、その本文は問題を孕む
  • 版本本文と人情本刊行会版の本文を比較すると、表記の改変・本文の改変が見られる
    • 対象作品は春色恋廼染分解・毬唄三人娘・春色江戸紫・花暦封じ文・春色玉襷

表記の改変

  • 漢字→平仮名:荒淫〈しつツこう〉→しつツこう、恟〈ぎよつ〉→ぎよッ
    • 白話語彙が多く含まれる
  • 平仮名→漢字:べらぼう→篦棒
  • 漢字→他の平易な漢字
    • これもやはり白話語彙が多い
  • 平仮名の改変*1:うるたいて→うろたへて、場合〈ばやい〉→場合〈ばあひ〉
    • 江戸音訛が一般的な形に直されており、資料価値を損なう
  • 濁点の追加:ふらふら→ぶらぶら、ひがけ→ひかげ(版本側の誤刻の可能性もある)

本文そのものの改変

  • 男女の性愛の場面の意図的な改変・削除
  • 活用語承接の「です」が「のです」へと改変される例
    • 夫には種々入組だことが有ですから→あるですから
    • 江戸中期までの活用語への直接接続の使用の残存と見るべき例

雑記

  • いいいらすとだなあ

*1:これは表記の改変なのか?