山田昌裕(2000.6)主語表示「ガ」の勢力拡大の様相:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』との比較
山田昌裕(2000.6)「主語表示「ガ」の勢力拡大の様相:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』との比較」『国語学』51-1
要点
- 原拠本平家と天草版平家に対照によるガの勢力拡大について、主に以下の3点を示す
- 対象を明示化する指向があること
- 疑問文においてカ・ヤからガへ移行すること
- ノからガへの移行が主に詠嘆表現で起こること
自動詞文におけるガの進出
- 原拠本において、主語標示に入り込んだ助詞はガが多い
- 主語標示機能は従属性・連体節から発達したものは古代語の機能の延長上にあるが、主節内における使用も新たに見られ、特にこの点に注目する
- 主節ガにおける述語は、特に非対格自動詞文における無助詞主語への付加が多い
- 子細アリ→子細がある など、存在動詞の例が多く、
- 終リナカルヘキカ→終りがあるまじいか? のような否定表現の場合は、通常 儀あるまじ→儀わあるまい のようにハかモが付加される
- 原拠本において既にガがある場合は強調文脈で用いられる、主語ゾ―連体形の効果を引き継いだものだが、天草版においてはニュートラルな状態であり、単なる主語標示に用いられていると言える
- 表現効果上の付加でないとした場合、これは、内項(internal argument)の対象(Theme)を明示化しようとする意識の現れとして位置付けられる
- 形容詞文(涙押ヘカタシ→涙が抑えがたい)も対象を明示化するという点で、これに準ずる
- 一方で、Agent を明示化する動き(外項の明示化)はこの段階ではあまり見られない
- 他動性・意志性によって論理関係が支えられており、あらためて語と語の関係性を明らかにする必要性がないため
- 語の関係が曖昧な場合にガが追加されている
- よって、全体としては無助詞主語も多い
疑問文におけるガ
- 原拠本においてはカ・ヤが活発だが、ガに置き換えられる例がある
- なんのおそれか候べき→なんの恐れがござらうぞ?
- これらの例も全て、非対格自動詞文・形容詞文であるので、係助詞カ・ヤの衰退と内項の明示化が相まってガが用いられるようになったものか
ノとガ
- ノがガになったものには、まず、詠嘆表現の例がある
- トクシテ・日ノ暮ヨカシ→早う日が暮れいかし
- 言い換えれば主節におけるノは尊敬対象標示へと収束しているわけだが、
- 尊敬を伴う場合にもガが用いられることがあり、軽卑対象標示を喪失したと考えられる
- 木曾宣ケルハ→木曾殿が言われたわ
雑記
- このCM、「飲み会はやったのか?」「やってます」のとこでオチてるのが15秒版だと分かりにくく(30秒版だと分かりやすい)
- が、これで分からないところはこういうの導入しないような気もする