釘貫亨(2016.3)「上代語意志・推量の助辞ムの成立と展開」『訓点語と訓点資料』136
前提
- 活用助辞ム(いわゆる助動詞)が、精神的心理的意味を持つム語尾動詞から分出されて成立したと考える(釘貫2014)
- ムの意味は人称によって決まるのではなく、上接語が意志動詞の場合に意志、無意志動詞・状態動詞・形容詞・形容動詞の場合に推量に偏る(釘貫2016)
- 以上を前提にして、意志・推量の用法の成立の新旧と、その後の展開について考えたい
意志・推量の新古
- 意志の意を先に獲得した可能性を考える
- ムの母胎となったム語尾の精神的動詞は、大多数が意志動詞で占められており、ムが分出された場合に実現された意味が意志だった、という可能性
- 推量の意を先に獲得した可能性を考える
- 意志動詞と異なり、推量動詞(おす・はかる)は上代には存在しないので、形態的な痕跡のない「推量」がその資源なしに登場したという事態を説明しなければならず、しかも意志動詞「以外」に接してそれを標示した、というのは考えにくい
- 意志・推量が同時期に成立した可能性を考える
- やはり、推量の意が取り出されることが説明しがたい
- 以上より、意志が先行し、推量が後発的に生まれたものと考える
- では、その推量の意はどこから来たのか?
- 状態性述語は話者の外側にある世界の事物の状態を表すもので、その主格に三人称が多く分布するのは自然
- その存在の様態に関する話者の態度が文法的に表示されることで、推量と解釈される意味となる
- 意志は近接する未来において話し手が叙述する事態を実現することの意思表示、推量は近接する未来において話者以外の動作主体が叙述事態を実現することを予測するという表示であり、その「近接する未来に叙述事態が実現する」という事柄の共通性により、意志のムが推量に用いられたと考える
ク語法マクの展開
- さらに意志・推量にムは、マク(ムのク語法)と欲しによるマクホシによって、話者の動作願望を表す方法として発達する
- 並行して、マクホリ・マクガホリなどもあり、そのうちマクホシがマホシに変化して用いられた
- また、マクホシは[話主・連用形・マク・ホシ」という構造を取るが、「ホシ」の位置に「惜し」「畏し」などが来て、話者の感情を表示することもあった
- [連用形・マク・感情形容詞]としてまとめられるが、マクホシは動作願望を示すために意志動詞が上接し、惜し・畏しなどの場合には無意志動詞が比較的多い
- (マクホシについては釘貫2018がある)
雑記
- ようやく追いついた(が、また追い越されそう)