ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

岡部嘉幸(2011.3)否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に

岡部嘉幸(2011.3)「否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に」『千葉大学人文研究』40

問題

  • 現代語においては必ずは肯定述語と呼応するが、江戸語に否定述語と共起する例がある
    • 女房「そう仕なせへ。必(かならす)好男(いゝをとこ)を持なさんな浮世風呂
    • 「必ずしも」は調査から除く
  • 江戸語~明治期における変遷の見取り図を示す

「必ず」の述語

  • 江戸語においては、
    • 肯定述語との共起
      • 命令:必ず取りに来て呉りやれ(花暦封じ文)
      • 意志:必ず待つぞ(恋乃染分解)
      • 叙述(一般論か推量):げいしやが三味せんをひくと、かならずきせるで茶わんをたゝく人なり(傾城買四十八手)
    • 否定述語との共起
      • 禁止(冒頭の例)
      • 意志:必ず他人には言ふまい(花暦封じ文)
      • 叙述型はない*1
    • 江戸語においては否定述語の共起が多く、そのうち禁止が圧倒的
    • ただし、洒落本・滑稽本では否定述語との共起は低く、人情本では高い
  • 現代語においては、肯定述語に関しては江戸語と変わらないが、否定述語は「必ず家にいないような女は…」の叙述型の1例のみ
  • 近代語(太陽1895・1901)は否定述語と共起する点では江戸語と連続的で、否定述語の叙述型が存する点では現代語との中間的な性質を示す

まとめ

  • 否定述語の共起は江戸語では盛んに用いられ、近代語でも保たれたが、現代語に至って用いられなく鳴った
    • 現代語では決して・絶対の担う範囲になっている
  • 類義的副詞との関係や構造的観点からの分析も必要

雑記

  • テレビに蓮池氏出てくるとビビる

*1:「江戸語において「叙述型」が存在しなかったと断言することは躊躇される」とはあるが、例えば以下のような例はどうか。
庵太郎、かならずさたなしじやぞ。(虎寛本・比丘貞)
かならずさたハない事。(軽口初売買)