ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

木部暢子(2019.2)対格標示形式の地域差:無助詞形をめぐって

木部暢子(2019.2)「対格標示形式の地域差:無助詞形をめぐって」『東京外国語大学国際日本学研究報告』5

要点

  • 対格標示形式の地域差、各地の出現要因について、方言コーパスを用いつつ示す

前提

  • 主格・対格標示の地域間の差異
    • 弘前:主格・対格ともに無助詞
    • 広島・鹿児島頴娃町:主格ガ、対格オ
    • 東京・北九州市:主格ガ・対格オ、もしくは無助詞
    • 各地点における無助詞形の役割について考える
  • 無助詞標示がされやすい環境
    • a 有生性が低い場合になりやすい
    • b 特定性が低い(あの犬ドゴ捕まえてくれ)
    • c 代名詞の場合になりにくく、疑問詞の場合はなりやすい
    • d 対格名詞句と動詞が隣接する場合になりやすい
  • 3節は方言コーパス(COJADS)の概説

地域差

  • COJADSに基づき対格標示形式の地域差を示すと

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p.24

  • これに対して、以下のことが問題となるので、上記の環境から考えていく
    • 弘前の助詞ゴトの出現要因
    • 広島・頴娃町の無助詞の出現要因
    • 東京・羽咋・大阪・北九州の無助詞の出現要因
  • 弘前の場合、
    • a 名詞句階層のうち、人はゴド、それ以下は無助詞
    • d 対格名詞句との非隣接の場合にゴドが多い
  • 北九州の場合、
    • a 有生性は関与せず、
    • b 特定性の高い固有名詞はオで標示され、疑問詞は無助詞
    • c ソ形指示詞はア形指示詞よりオの標示の割合が高く、やはり特定性の関与が考えられる
    • d 非隣接の場合にオが多い
    • e その他、情報構造が関係すると思われる例があり、対格名詞句が焦点化される場合にオの標示がされている
  • 頴娃町の場合、無助詞のように見えるものも助詞融合形である可能性が高い

雑記