永田里美(2018.3)「『源氏物語』における反語表現:会話文中の「ヤハ」、「カハ」について」『跡見学園女子大学文学部紀要』53
要点
- いわゆる反語のヤハ・カハの差異を示す
- ヤハの結びは既実現要素、カハの結びはムなどの未実現要素に偏り、
- ヤハは聞き手に直接的に求める反語、カハは婉曲的に事態の不成立を訴える反語表現である
前提
- 疑問のヤ・カにハが後接したヤハ・カハは、ともに「反語」とされるが、その振る舞い(の異なり)については未だ明らかでない
- あゆひ抄では、文末ヤハは「目のあたりの勢い、よし見よかしの心」、文末カハは「おしなべたる理によりて静かに、言わねどしるき理」とされるが、どうか
ヤハとカハ
- ヤハは結びに存在詞やアリ系の活用語などが多く、現実的・客体的事態を問う反語表現と解釈される
- ベシ、ズ、ケリ、キ、メリなどに偏り、ムは少ない
- モダリティ形式を使用しない「現場型疑問文」にかなり近い性質(対話場面、存在詞、基本形・キ・ツ、など)を持つ
- カハの結びはム、マシ、ベシ、ケム、ラムなどに偏り、主体的事態を表す、自己の内面の戸惑いを表すタイプの反語表現と解される
- こちらは「観念型疑問文」に近い性質を持つ
- ヤハとは異なり、反語か疑問(不定疑問・困惑)かの区別が難しい例が見られ、「婉曲的なニュアンスがうかがえる」
- 聞き手が不在の例もあり、やはり自問的
- 中古の疑問文の多くは観念型であるが、会話文において、単体のカは推量の助動詞を常に要求するわけではないので、ヤハ・カハの結びの特性は反語のスタイルとして意識されたものである
- ヤ(肯否疑問文)は述部を、二者択一で迫るので、それがヤハの場合に聞き手の配慮を欠く表現になる
- 一方カ(不定疑問文)は、いくつかの選択肢を提示し、カハの場合に、想像(未実現・非現実)を介して話し手の意図する回答を選ぶことになるので、そこに推量の助動詞の生起し、婉曲的に不成立を訴える表現になる
- このようなヤハ・カハの表現価値の異なりは、源氏の人物造型にも影響を与えており、例えば、ヤハは女性から男性に使用されにくいことが観察される
雑記
- どうだろうか