松本昂大(2016.10)「古代語の移動動詞と「起点」「経路」:今昔物語集の「より」「を」」『日本語の研究』12(4)
要点
- 移動動詞の意味的特徴によって、起点を表す格助詞の用法が決定される
前提
- ヨリ・ヲは概ね、起点・経路を表すとされている
- が、万葉集にはヲが特定の動詞(離れる意味を表す動詞)にしかつかないことの指摘がある
- ヨリ・ヲの使用実態を、動詞との結びつきから明らかにしたい
- 調査語は「至る」「出づ」「御す」「返る」「来たる」「越ゆ」「去る」「過ぐ」「通る」「離る」「参る」「渡る」
要点
- 結論先取り
- A ヨリ・ヲの両方を承け、いずれも経路の用法を持つが、ヲが起点を表すことはない(すなわちヲは常に経路)
- 移動の過程に特別な関心がある場合(経路を強調する場合)にヨリが経路を表すことがある
- 車ヲ去テ,城ノ外ヨリ過ギ給ヒヌ
- 移動の過程に特別な関心がある場合(経路を強調する場合)にヨリが経路を表すことがある
- B・C は、いずれもヨリ・ヲのどちらか専用で、起点の用法しかない
- 「より来たる」と「を離る」の対照によれば、「来たる」は国・地名や不定語の上接が多く、「を離る」は抽象的概念を承けることが多い
- D「出づ」はヨリ・ヲの両用で、どちらも起点を表す
- 移動のあり方によって分類が可能
- 「出現」のうち、無情物、出自・来歴の場合にはヨリ
- 出発した後に移動がある場合はヲが多く、移動がない場合にはヨリが多い
- 「出づ」後に別の移動がある場合にはヨリ
- 移動のあり方によって分類が可能
- 動詞の意味的特徴を考える
- Aは経路と結びつくことができる動詞
- B~Dを、BとCの中間にDがあるものとして、着点「ニ」との結びつきを考えたとき、
- Bと、出現を表す出づは着点との結びつきが強く、起点との結びつきは弱い
- 「里ニ出デヽ乞食シ給ヒケリ」のように着点が明記され、起点は明記されない
- 一方でCにはニとの共起はなく、「いなくなる」ことへの焦点が強い
- Bと、出現を表す出づは着点との結びつきが強く、起点との結びつきは弱い
- 通時的には、「を出づ」は当初出発を表したが、のちに出現を表すようになり、「より出づ」の領域を侵食した
- 今昔以外の「より出づ」「を出づ」をCHJ見た結果による
雑記
- 「かもめが翔んだ日」のイントロでかもめがピュウピュウ鳴いてるとこめっちゃ笑っちゃう(聞いてみて下さい)