ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小林賢次(1979.2)中世の仮定表現に関する一考察:ナラバの発達をめぐって

小林賢次(1979.2)「中世の仮定表現に関する一考察:ナラバの発達をめぐって」『中田祝夫博士功績記念国語学論集』勉誠社

要点

  • ナラバの上接語の種類の拡大という観点からナラバの発達過程を見る

前提

  • 院政期までのナラバは、
    • 活用語ナラバに完了性仮定(~タラバに相当)の用法が見られ始める
    • モノナラバの例がある
    • モノナラバには中古にも完了性仮定の例があり、活用語ナラバに先行するものであった
    • 加えて、コトナラバは非完了性のみ
  • これが、どのように拡張したかを見ていく

鎌倉以降のナラバ

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p.304-305

  • 形式名詞ナラバについて、
    • モノナラバは、鎌倉にツルモノナラバ、ヌルモノナラバなどが完了性仮定の用法として広がり、室町口語では衰退
    • その他、コトナラバは非完了性の用法が主であったが、虎明本には~タコトナラバが完了性として用いられる
    • ホドナラバは例が少ないが、婉曲的ニュアンス(~でもしたら)の意で用いられる
  • 助詞ナラバについて、
    • ニナラバ、ノナラバ、テナラバなど上接語の範囲が広がる(従来はトナラバのみ)
    • ゾナラバのように文全体を承接するものもある
  • 活用語ナラバについて、
    • 動詞+ナラバは既に院政期に完了性仮定の例があったが、室町にはより発達
      • 抄物では非完了性が多く、キリシタンでは完了性仮定が多い
      • 抄物では完了性仮定にはもっぱらタラバが用いられる
        • 過去・完了がタに収斂する中でナバは文語化したと考える
      • 咄本では完了性にタラバがあるが、国字本伊曾保(文語性が強い)ではタラバが見られないなど、やはり文体的な相違がある
    • 推量の助動詞を承接する場合があり、
      • かつては著聞集にベキナラバがあった程度だが、
      • 抄物には意志・推量の意を受けるウナラバ・マイナラバなど、上接語の種類が多彩に
        • 「其如ク仁ヲセソナラハ先仁ヲセン器ヲヨクスヘキ也」(東山本論語抄)など、文相当句を承接したものと見るべき
        • キリシタンには例が少なく、虎明本にはいわゆる「未来」の用法も見られる
    • さらに命令形ナラバ(~せよというのなら)の例があり、これもやはり文相当句の承接である
    • 文相当句の承接は、先行するナレバ・ナレドモ(文語的性格に留まる)には見られず、ナラバに見られるのが対照的

雑記