菅原範夫(1989.3)キリシタン版ローマ字資料の表記とよみ:ローマ字翻字者との関係から
菅原範夫(1989.3)「キリシタン版ローマ字資料の表記とよみ:ローマ字翻字者との関係から」『国語学』156
要点
- ローマ字本キリシタン資料の誤字や翻字の偏りを手がかりに、以下の2点を指摘
- ローマ字本は翻訳者と翻字者の手を経たものであり、
- 翻字者は複数いる
前提
- 天草版平家に帷幄(イアク)が fuivocu とある箇所があり、これはローマ字に翻字する翻字者が、翻訳者の漢字かな交じり文を誤読したものと考えられる
- また、コンテムツス・ムンヂには満溢が manyeqi と誤読される箇所、 manyt と正しく読まれる箇所があり、翻字者が複数いたことを匂わせる
- 以上を前提として、ローマ字翻字者と本文の関係を考えたい
翻字者の違い
- 天草版平家では、まず以下の2点により、複数の翻字者がいたものと考えられる
- イの i, j, y 表記が100ページ程度ずつに分布することが注目される
- ク表記の cu, qu 表記がイ表記の偏りと同様に認められる
- 具体的には、Ⅰ 巻1・巻2、Ⅱ 巻3、Ⅲ 巻4第1-11、Ⅳ巻4第12以降の4分割
- 天草版平家以外にも偏りの見られるものがある
- 『サントス』にカの qa 表記、qi que の使用、居るの i(通常はy)など
- 『ヒイデス』も同様、拗長音のeô, iô偏り、活用語尾クの cu 表記(通常はqu)など
- 『ムンヂ』にも偏りあり
- 一方、『ドチリナ』『イソポ』『金句集』にはない。これは短編であったからだろう
- なお、『スピリツアル修行』は大部であるが、2人分の分布しかない
誤読・同語異形の分布
- 天草版平家において、上で見た翻字者の違いは誤読の違いにも現れる
- 例えば、Ⅱは固有名の誤読があり、Ⅳは漢字を正しく読めない
- 開合についても、Ⅱは開音の誤りが多く、Ⅲ・Ⅳは合音に誤るものが多い
- Ⅰはその内部に誤用(Cyôbiǒye, Chôbiôye)と正用(Chǒbiǒye)が混在するが、初出の誤用が後出の箇所で訂正されている(「表記基準に同化している姿のようである」)
- その他、語形にも揺れがあり、
- 舌内入声音(xǒguat, xǒguachi)
- 弟(オトト・オトオト)、行く(イク・ユク)など
- なお、これらの分布の偏りを口訳の違いとする清瀬説(二分説)、小池説(三分説)があるが、本稿は、同語を各自が異形で読んだものと考える
- その他キリシタン版においても同様、以下略
雑記
- QRコード決済のことバーコード決済って言うけど、「バーコード」に情報が変換されたコード的な意味が焼き付いてるんですね(バーじゃなければバーコードではない)