鈴木丹士郎(1999.10)「近世における形容詞シシ語尾の展開」『近代語研究』10
要点
- 近世の形容詞シシ語尾には終止法と中止法があり、
- 終止法が典型的に、強調の場合に用いられた
- その他形容詞の特殊な用法について
シシ語尾の用法
- 終止法に使われる場合と特殊な中止法に使われる場合がある
- 終止法の場合、文終止の場合と、反復形による終止(うれししうれしし)があり、いずれも感動詞のあとに位置する場合が少なくない
- おめ〳〵生て帰らんとはうらめしし。
- 特殊な中止法(=不十分終止)は並列に用いられ、累加的な場合と、原因・理由を表す場合がある
- 累加的:命はおしし所領はほししをしやはしやのがき侍
- 原因・理由:見られてはむつかしし しがいをかくせ。
- ただし、根拠としての拘束はゆるやかである
- シシ語尾の「本領は文を完結させる終止法に」あり、ときに中止法として用いられるものと考える
- それが可能なのは、終止形がそもそも「閉鎖的性格」を持ち、連用形に通ずるところがあるため*1
シシ語尾の性格
- シシ語尾は状況・事態の判断の強調の言い方であった
- それは例えば、以下のように対比できる例から窺える
- やあめづらしゝ弥五郎/やあめづらしや弥五郎
- なおク活用の強調の場合は促音挿入(にっくし)や音変化(ふてい)という方法もあったが、文語表現としては採用されづらく、終止形シを取る
- めでたし〳〵〳〵といさめながらも
その他
- 近世には形容詞終止形がノを承けることがあり、
- ~事の浅まし
- それがシシ語尾の場合もある
- きざみたばこのあさましし
- 「御シシ語尾」の例があるが、「おいとしし」で固定的である
- 助動詞に関してもマホシがシシ語尾を取る
- 御仕置あらまほしゝ
- シシ語尾を一般的形式として記述する資料もあれば、一方で誤りであると記述するものもある
- 嬉しゝ。久しゝと遣ふは一向の誤也。(古学截断字論[1834序])
雑記
- カレー食いて~~!
*1:しかしそれではもうただの連用形ではないか……?そういえば、中世の不十分終止は旧形態にしか残らないという説明がされがちだが、「寄っただけなのにご飯も食べる、テレビも見る、…」と言えるように、終止形そのものの働きというよりは終止形の事態をまとめる力と、ハ・モの機能によるのでは?と考えた方がよいのではないか、とふと思った。普通の終止形でも可能だったはずで、おそらく並列させるような例もあるが、仰々しい発話に旧形態が使われることによって不十分終止という機能があるように見えているのではないか(でもこれだと対句になる理由が説明できない)?一回ちゃんと考えてみたいな~