ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

近藤泰弘(2000.2)モダリティ表現の変遷

近藤泰弘(2000.2)「モダリティ表現の変遷」『日本語記述文法の理論』ひつじ書房、原論文は近藤(1993.5)「推量表現の変遷」『言語』255

前提

  • ム・ラム・ケム・ベシ・マジ・ジ・メリ・ナリの現代語への変遷について考えたい

分類

  • 以下の3分類とする
    • A ベシ・マジ:極めて用法が広く、連体ナリに上接可能(客観的)、意味も広い
    • B メリ・終止ナリ:活用形不備、不変化的性格があるが、疑問文には用いられない(ム系と異なる)、連体ナリには下接する、意味的には evidential
    • C ム・ラム・ケム・ジ:ほぼ不変化助動詞で過去形もなく、典型的なモダリティで、疑問文にも現れ、連体ナリには下接
  • 現代語については以下の2つに分ける
    • 1 カモシレナイ類:過去形を持ち、疑問文にも用いられる
    • 2 ウ・ヨウ・ダロウ・マイ

比較

  • 現代語の場合は相補的であるが、
    • 1 カモシレナイ類は活用完備、過去形あり、疑問文と非共起、連体あり
    • 2 ダロウ類は活用不全、過去形なし、疑問文と共起、連体なし
  • 古典語の場合はそうでもない
    • A 活用完備、過去形あり、疑問文と共起、連体あり
    • B 活用不完備、過去形あり、疑問文と非共起、連体あり
    • C 活用不完備、過去形なし、疑問文と共起、連体あり
  • 古典語の場合、現代語と異なり全てに連体用法がある
    • 主観性と相容れない性格であって、古典語モダリティ全般は現代語のダロウよりも主観性が弱い
    • すなわち、仁田の真性モダリティだけを担う語形はないと考える
  • 過去形の有無、疑問文との共起は古典語と現代語に似た点がある
    • 現在形しかないCは明らかに主観性が強く、A・Bは疑似モダリティ的性格が強い。現代語の分類もこの観点によるもの
    • epistemic が一般的に疑問文には用いられない(may, must)ことからして、現代語のウ・ヨウの疑問文と共起するという性格は、ム・ベシから引き継いだものである

古典語から現代語へ

  • 以下の変化があり、
    • Aの文末用法の弱化とBとの統合
    • Bの消滅・別語形の発声
    • Cの文末専用化
    • Cのム以外の消滅
  • 問題は以下3点にまとめられる
    • なぜAが勢力を弱め、Cが残ったか
      • 否定形においてはむしろベシ系のマイが残っているので、よく分からない
    • なぜCの中でもムだけが残ったか
      • ラム・ケムは原因理由推量の性格(他の節までモダリティのスコープを及ぼす力)があり、連体ナリも同様にノダになっているので、「スコープを他の節に及ぼす形でのモダリティの語形」が揃って消えているとまとめられるか
    • なぜBは残らなかったか
      • よく分からないが、古典語助動詞はツ・ヌ、キ・ケリすら語形自体が消滅しているので、それと関係するか
  • ただし、方言ではこの限りでないことには注意すべき
    • 関東・完成ではム系が中心だが、東北ではベシ系が残る
    • 九州南部と東北に二重否定形がある

雑記

  • 『日本語のモダリティと人称』、「日モ人」って略してる